2009年2月06日
【書評】山田克哉著 『日本は原子爆弾をつくれるか』 (PHP新書) 740円
著者は在米40年を超える物理学者で、「マンハッタン計画」に参加したテネシー州の旧オークリッジ研究所でも研究生活を送った「原爆」の専門家だが、本書の表題はとんでもない羊頭狗肉だ。これほど表題と内容が一致していない新書というのも珍しい。
科学者らしく、放射線・放射能の説明からはじまり、原爆の構造、ウランとプルトニウムの特性の解説などは微に入り細をうがち、懇切丁寧だが、「日本が原子爆弾を作れるかどうか」については、本文229ページのうち、わずか20ページ足らずを割いているだけで、しかも「経験がないから人材がいない」、だから「現在の日本は原爆を開発できるような状態にはなっていない」、「もし日本が核武装したら、政治家だけでなく、国の平和を望む一般市民が落胆し、日本をさげすむであろう」と、あっさり片付けている。
事実誤認もはなはだしい。北朝鮮の核開発・核実験を機に日本の核武装論議が再燃、毎日新聞のアンケート調査によると、自民党議員の3割、民主党議員の1割が、核武装支持ないしは検討を是認しているのが現状である。「日本国憲法は核武装を禁じていない」と、従来、安倍元首相、福田前首相、小沢民主党代表らが発言している。
2006年10月の北朝鮮核実験直後には、中川昭一(現財務相)、麻生外相(現首相)らが「おおいに議論すべきだ」と説き、安倍首相(当時)もこれを支持したのは記憶に新しい。
日本人の関心は北朝鮮の“脅威”にあるが、本書ではまったく触れていない。中国の核保有の経緯と現状についても、わずか8行記述があるだけだ。読者の知りたい事実にはほとんど応えていない。
「いまの日本にはプルトニウム239の濃縮度96%以上の良質のプルトニウムが60kg以上溜まっているはずである。これは長崎型原爆ファットマン10発分である」(P170)といいながら、「いまの日本には兵器級プルトニウムはないと見た方がよい」(P218)という矛盾した記述もある。
それ以外にも、「スイスも核開発に着手している。イスラエルも核兵器を所有しているといわれるが、実験は一度もしたことがない。もし持っているとしらが、それはアメリカから導入したものではないかと筆者は想像する」(P214)などという無知と誤解をさらけ出している。
スイスは核開発していないし、イスラエルの核は独自開発。デモナの核兵器工場労働者バヌヌの暴露証言で23年前に明らかにされ、すでにオルメルト首相が核保有を事実上認めている。
【『NERIC NEWS』2009年2月号】