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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

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核・原子力
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2009年11月09日

国際オンチの日本人の誤解と過大評価を糺す 

オバマへのノーベル平和賞授賞は大間違い

最大の誤解はノーベル賞の権威に対する過大評価だろう。日本人受賞ともなると、メディアは上を下への大騒ぎをする。先進国でこれほど欣喜雀躍する国は他にない。

 

昨年、物理学賞を受賞した益川敏英氏は「大して嬉しくない。ノーベル賞は世俗的なもので、社会現象だ」と言い放ったが、英語嫌い、外遊嫌いの益川氏こそ、筆者に言わせれば最高の国際人だ。バランス感覚を備えている。

 

今年の平和賞はオバマ米大統領が受賞したが、ノーベル賞の歴史で最大の汚辱、汚点である。このまま核廃絶が進まず、オバマが次の大統領選で敗退するか退場したら、オスロのノーベル委員会は今後の授賞権限を返上すべきだ。

 

その後、ノルウェーの元国会議員で構成される委員会における候補者選出過程でヤーグラン委員長(与党・労働党元党首)の独断専行だったことが暴露され、「ノーベル賞に国際政治を持ち込み、混乱させた」として、委員長辞任要求も出ている。平和賞は実績に対して授与されるべきものだ。

 

日本のメディアは歓迎一色で、全国紙は号外まで出した。コメントを求められた私は「時期尚早、就任したばかりで、スローガンを掲げただけで受賞資格はない」と述べたところボツになった。

 

オバマのプラハ演説の受け止めも感情論先行

「核兵器なき世界」を求めるとする4月9日のプラハ演説も大向こうの受けを狙ったオバマ一流のプロパガンダだ。彼は同時に、「私の存命中、核廃絶は実現しないだろう」「地球上に核兵器が存在する限り米国は核放棄しない」「同盟国に対する核抑止(核の傘)の約束は守る」とクギを指しており、全体としてみればバランスをとっており、画期的な核政策転換ではない。「究極の核廃絶」は過去2回、NPT(核不拡散条約)再検討会議で、(米国も賛成して)採択されている目標になっている。

 

秋葉忠利広島市長は「オバマジョリティー(obamajority)と呼ぶ」などとはしゃいでいたが、無知も甚だしい。そんなダジャレは英語では通用しない。上述の現実論を含めてmajority だというなら、当たり前だ。

 

核廃絶に至る道は、核保有国の核削減(核軍縮)と(非保有国への)核不拡散の2本柱がクルマの両輪となって進まねばならないが、いずれにも暗雲が立ち込めている。ロシアがオバマの思惑どおりに核削減に応じる可能性は低いし、中国が同調する見込みは今のところない。米ロ両国が保有する核弾頭が100発台(三桁)になるのは10年くらい先の話だし、英仏中をまじえた核軍縮交渉はさらに先の話だ。

 

核廃絶には対立・紛争消滅が大前提

ひとたび保有した核兵器を廃棄するには、法規制ではなく、国際関係そのものが激変し、各国がまさに友愛と信頼で結ばれる必要がある。つまり地球上のすべての国家・民族が仲睦まじく共存共栄することが大前提だ。対立と紛争が続く限り、核兵器は消滅しない。核兵器は安全保障の最大のテコになるばかりでなく、国家のステータスシンボル、ナショナリズムの高揚にも資する貴重なシンボルだからだ。

 

核保有には、(1)実戦用兵器 (2)安全保障 (3)国威発揚 (4)ナショナリズム高揚 (5)対米交渉用の外交カード、としての効用がある。そのすべてのモチヴェーション(動機づけ)が消失しないかぎり、この地上から核兵器は消滅しない。

 

核不拡散の最大の障害はイラン

日本では、北朝鮮の核廃棄は至難の業で、金正日総書記が核兵器を絶対に手放さないという見方が支配的だが、「朝鮮半島非核化」は金日成主席の遺訓であり、遺訓は絶対である。

 

金正日は「核を手放す」用意はある。ただし北朝鮮がいう「非核化」とは朝鮮半島から米国の核攻撃(使用)の脅威が消滅することが「同時行動の原則」から不可欠なのであり、米国が金正日体制をまるごと承認し、米朝平和条約を結び、不可侵・内政不干渉を約束しない限り実現しない。在韓米軍撤退も不可欠だ。オバマの決断しだいでは実現不可能ではない。

 

問題はイランだ。イランの核開発・核保有は最高指導者ハメネイ師の大方針であり、P5プラス1(国連安保理常任理5カ国+ドイツ)との交渉をのらりくらりとかわしながら、秘密裏のウラン濃縮は絶対に放棄しないだろう。

 

北朝鮮の場合にもあてはまるが、核開発は、(1)自国内にウラン資源を保有し、(2)開発技術(ノウハウ)を取得し、(3)器材を入手できれば、表面上、放棄を約束してもいつでも再開、継続できる。国際社会は、NSG(原子力供給グループ)の合意、一連の安保理決議、米国主導のPSI(拡散対抗安全保障構想)などで締め付けを強めているが、抜け穴の存在は否定できず完璧は期し難い。しかも核開発と原子力平和利用は紙一重だ。

 

イランに核開発断念を迫るのは無理だ。米国はイスラエルの核保有を黙認し、廃棄を迫っておらず、典型的なダブルスタンダードが存在する。イスラエルはパレスチナ紛争をかかえている。つまり(イスラエルとの共存を否定する)ハマスがガザ地区を支配し、ヒズボラがレバノンに勢力を温存するなどイスラム原理主義勢力との対立が先鋭化している。そのイスラエルは極右勢力が政権を握っている。要するに中東問題が解決しない限り、中東の非核化は実現しない。

 

「IAEAは“核の番人”」も幻想

12月からIAEA(国際原子力機関)事務局長に天野之弥大使が就任する。「非核3原則」を国是とし、原子力平和利用に徹している日本が“核の番人”の国際機関トップの座を占めるのは、政府・原子力業界の悲願だったが、天野氏が事務局長になったから日本の発言権・影響力が増大するというものではない。せいぜいIAEAを通して情報収集がやりやすくなるという程度だ。事務局長というのは機関そのものの活動を左右するほどの影響力を持っていはいない。

 

そもそもIAEAは核軍縮・核廃絶を目的とする機関ではない。むしろ原子力平和利用(原子力発電)推進が主目的である。原発の推進機関なのだ。その点を誤解している日本人が実に多い。

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