2007年6月10日
ハイリゲンダム・サミットの教訓
旧東独のハイリゲンダムで開催された今年のG8(主要先進国首脳会議)は、「2050年までに地球規模のCO2排出量を半減させることを削減目標とするEU(欧州連合)、カナダ、日本の決定を真剣に検討する」という線で合意した。
数値目標設定に反対していたブッシュ米政権からすれば大譲歩だが、2012年以降の排出削減努力の枠組みに中国、インドなどの主要途上国が加わることを条件にしており、しかも「(削減を)真剣に検討する」という文言にとどまり、削減目標を受け入れたわけではない。2008年から12年までの削減目標を主要先進国に割り当てた「京都議定書」から離脱したブッシュ政権が、それから先の数値目標を受け入れるはずがない。
日本のメディアは、"米欧の橋渡し役"を自認していた安倍首相の仲介成功とする同行記者団の自画自賛の現地報告をたれ流していたが、地元ドイツ紙によると安倍首相は脇役にすぎず、合意の決め手は、議長役のメルケル独首相とサミット出席を花道に月末に引退するブレア英首相の必死の説得にあったようだ。
安倍首相の掲げる「美しい星50」構想は、もともとEUの温暖化防止対策に追随したものだが、2050年までのCO2排出半減という目標は容易に達成できるものではないことを政府も国民も認識すべきだ。
「京都議定書」で日本が受け入れた排出削減目標は1990年比で6%減だが、2008年から12年まで間の実施を前にして現状は8%増になっており、最大限5年以内に14%の大幅削減を実現しなければならない。これは到底不可能な数字であり、カナダは早くもギブアップ宣言をしている。エアコンの温度を上げて省エネしようというクールビズやサマータイム導入などの中途半端な対策で達成できる代物ではない。
そうしたなかで再び脚光を浴びているのがCO2を排出しない原子力発電で、経済産業省と電力業界には、世界的な"原発ルネッサンス"の到来を歓迎し、グローバルな波で国内の反原発運動も原発に対する不信も乗り切れるという楽観論が支配しているが、はたしてそうか。
たしかに、TMI(スリーマイル島)事故いらい発注の途絶えていた米国で、ブッシュ政権の奨励策もあって34基の建設計画が進んでいるのをはじめ、ロシアで40基、中国で30基、インドで20基、それだけでも120基以上になるが、さらに欧州では英国、フィンランド、ルーマニア、ブルガリア、スロバキア、アジアではヴェトナム、インドネシア、トルコ、そして中東でもエジプト、その他湾岸諸国に原発導入の動きがある。
IEA(国際エネルギー機関)が温暖化対策として、昨年11月の年次報告で原発見直しの機運に先鞭をつけたのに続いて、今年に入ってIPCC(気候変動に関する政府間パネル)も原発を選択肢に挙げたが、いずれも核拡散、安全性、廃棄物処理に問題があることを付記し、手放しで推奨しているわけではない。
それに、日本国民の原子力不信を世界的な原発推進という"外圧"で乗り切ろうとするのは本末転倒であることを知るべきだ。
【『NERIC NEWS 2007年6月号】