2007年1月17日
核不拡散体制再構築の秘策は何か
今年も核拡散問題が世界最大の関心事になるだろう。国際核不拡散体制をゆさぶる事件が昨年は2件あった。いうまでもなく北朝鮮の核実験と米印原子力協力合意だ。イランの核開発も着々進行中である。
すべての核実験を禁止するCTBT(包括的核実験禁止条約)が国連総会で採択され、署名に開放されたのが1996年。核開発能力を有する44カ国の批准を待って発効する段取りになっているが、米国が離脱、中国が未批准、インド、パキスタン、イスラエル、イラン・・・問題の国がいずれも未署名。北朝鮮の実験ばかりを責められない。
昨年10月の北朝鮮の地下実験は、プルトニウムの爆縮反応が中途半端に終わり、中国に事前通告した4キロトンという所期の爆発の誘導には失敗したというのが定説だが、核爆発実験が行なわれたことに変わりはなく、とうてい実現不可能な「一方的核廃棄」要求に固執して、北の核開発を野放しにしたブッシュ政権の失政こそきびしく問われるべきだ。
北朝鮮は早速「核保有国」を名乗り、米国相手の軍縮交渉を提唱しているが、これはご愛嬌。ブラフ(駆け引き)にすぎない。しかしいったん保有してしまった核弾頭を廃棄させるのは至難の業である。体制保証の見返りに核放棄に応じたリビア・モデルを北朝鮮にもという声があるが、リビアには小規模なウラン濃縮施設しかなかった。
北朝鮮の目的が金正日体制存続にあることは自明だが、核さえ抱えていれば彼の目指す「強盛大国」が実現するわけではない。米朝・日朝国交正常化を成し遂げて大規模投資を呼び込み、経済再建に乗り出さなければならない。核カードを今後どう使うかがウデのみせどころだ。
他方、ブッシュ政権は「テロとの戦い」で核使用も辞さずの先制攻撃ドクトリンを採用、そのために小型核弾頭研究を推進、臨界実験再開も視野に入れている。このためNPT(核不拡散条約)で約束した「核軍縮」にはとんと関心を示さず、NPTのもうひとつの柱、「原子力平和利用」もイランには認めないというのだから始末が悪い。
その上、NPT非加盟を貫き、NPT体制に挑戦してきたインド相手に原子力平和利用で協力を申し出たのだから身勝手も甚だしい。しかしエネルギー需要急増の人口11億の大国インドの市場価値は捨てがたく、米議会も米印協力協定を承認、中仏ロの各国も追従する勢いだ。日本がNPT至上主義を掲げてインドとの協力を躊躇していると取り残されるのは確実である。
米国の外交は、法規範を追求する理想主義と実利優先の現実主義の間を振り子のように往復する伝統がある。民主党が前者、共和党が後者に立つ傾向があるが、とくにブッシュ政権はなりふり構わず実利路線をひた走りしてきた。力づくで拡散を押さえ込もうとするPSI(拡散対抗構想)もブッシュ政権の産物だが、これはあくまでも備逢縫策であり、根本的解決にはならない。
根本的解決は、指導者が核拡散に駆り立てられる動機を断ち切ることにつきる。動機には(1)攻撃用兵器としての調達 (2)安全保障のための抑止力 (3)国威発揚 (4)(国民が求める)ナショナリズム (5)対米交渉のためのカード、以上5種類ある。
北朝鮮は(5)から(2)に移行したが、(2)のために核など不必要であることを説得できるのは米国しかない。イランも(5)から(3)と(4)を経て、さらに(2)へ移行しつつあり、今のうちにその芽をつむことだ。国際社会が安全を保障して抑止力としての核を不要にすればいいわけだが、その場合、原子力平和利用は保証してやらねばならない。それをも拒否する権利は米国にはない。
日本核武装論は、もっぱら(3)と(4)だ。(2)は米国が「核の傘」を差しかけている。とすれば国威発揚のための核武装など百害あって一利なきことをメディアはもっと国民に知らしめる必要がある。
【『電気新聞』2007年1月16日「時評」ウェーブ欄】