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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

  • 設立宣言
  • 活動実績
  • 入会申込書
  • 代表・役員
  • ニューズレター

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北朝鮮
TOP > 北朝鮮 > 8回目の訪朝で確かめたこと

2007年4月23日

8回目の訪朝で確かめたこと

 4・4・4という数字をご存じか。去年一年間に北朝鮮から日本を訪れた人が4人(すべてスポーツ選手)、北朝鮮を訪問した日本人が400人(一日平均ほぼ一人)、その間、韓国を訪問した日本人が400万人にのぼる。大半が冬ソナとチャングムに魅せられた中年女性だ。

 北朝鮮とは国交がなく、拉致問題で「誠意ある対応をしていない」国で、経済制裁の対象国だから当然とみるか、それともやはり異常だとみるかは、その人に立場による。異常でも仕方ないと思うか、少しでも改善したいと思って行動するかも立場による。筆者は最後の部類に属する。

 低俗な日本のメディアは、筆者に「北寄りの学者」とレッテルを張り、誹謗中傷を繰り返しているが、全日本国民が北バッシングに同調して思想統一に応じたら、日本も北朝鮮並みの全体主義の国と変わりなくなってしまうではないか。ある国に対する脅威は人的交流の量に反比例するとうのが政治学者カール・ドイチェの説だ。相互理解が進めば不信感は消え、お互いに胸襟を開いて語り合うようになる。拉致の徹底究明を叫んで圧力一辺倒で制裁を課している安倍内閣の対北政策は大間違いだ。相手はますます対抗心を燃やして反撃してくる。拉致問題の解決は遠のくばかりだ。

 というわけで、日本の大学生3人を含む、学者、ジャーナリストら8人を率いて北朝鮮を訪問してきた。過去14年間で8回目の訪朝である。2年前の前回は医薬品を携えての人道支援だったが、今回は重量制限一杯の日本語の図書を詰め込んでの文化・教育支援に踏み切った。前回の訪朝で見学した平壌外国語大学日本語科にろくな教材がないのを知って、国際理解教育の専門家、米田伸次氏とともに図書支援を思い立ち、関西空港出発の際の税関当局の嫌がらせをかいくぐって150冊の古典・現代文学の粋を寄贈してきた。1966年の日本語学科開設いらい日本から図書の寄贈を受けたのは初めてだという。

 ちなみに、1990年の金丸・田辺訪朝団が日朝国交正常化に道筋をつけ、日本語ブームに火がついて、一度は平壌外国語大学の日本語学科が「学部」に昇格したものの、2002年の小泉訪朝後、拉致問題をめぐって関係悪化をきたし、志望者激減で「学科」に再格下げになってしまったのだという。逆に現在ブームになっているのは英語と中国語で、平壌でも英語が喋れると就職に有利だという。米朝国交正常化実現も時間の問題と見ているようだ。

 平壌市街と近郊に関するかぎり電力事情は改善し、1週間の滞在中、停電は一度もなかった。金正日総書記の指令で全国に小型水力発電所を増設中だった。「将来は軽水炉で発電したい」と社会科学院の尹戴昌博士はホンネをのぞかせた。

 公営の自由市場には中国製品が溢れ、中国人観光客とビジネスマンが街を闊歩している。北朝鮮全土が中国の東北部の一省になったという見方もある。日本製品も豊富にある。みな中国経由で入ってくる。平壌市街のレストランでビールを注文すると、キリンかアサヒかサッポロかと訊いて来る。日本の経済制裁などどこ吹く風だ。制裁で痛手を受けているのは親戚縁者を訪問できず、仕送りもできない在日朝鮮人だ。彼らを痛めつけても本国の政策転換には何の影響もないことを知るべきだ。

 滞在中、非武装地帯北の開城工業団地を視察した。5年後には2000万坪の敷地に韓国企業2000社が進出して北朝鮮の労働者10万人を雇用、年額200億ドルの精密機械類を送り出す予定で、「北東アジアのシリコンバレーにしてみせる」と推進役の現代峨山駐在所長・徐礼澤氏は胸を張った。南北協力はすでに後戻りできない点まで進んでいることは疑いない

【『電気新聞』2007年4月23日付「時評」ウェーブ欄】

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