2005年2月23日
北朝鮮「核保有宣言」は必死の対米ラブコール
北朝鮮の「核保有宣言」をめぐる日本の報道は間違いだらけだ。第一に、公式発表というが、「わが国は核を保有している」「核抑止力を保持している」「・・・実験も輸出もできる。するかしないかは米国次第だ」などの発言は、北京の6カ国協議でも外務省声明でも繰り返している。何が公式か何が非公式かの定義も存在しない。改めて米朝対話復活をアピールしただけである。
第二に、「6カ国協議参加の無期限中断」決定が、ブッシュ大統領の外交的解決への呼びかけ、ならびに協議再開を準備していた中国の面子をつぶしたという分析も見当違いだ。二期目の就任演説で、ブッシュ大統領は「圧制の終焉」を向こう4年間の目標として掲げ、これを受けてライス新国務長官も上院公聴会で北朝鮮を「圧制の拠点」と名指しした。これでは、いくらブッシュ大統領が外交的解決を強調しても、米朝対話には応じないという従来の方針を変えない限り6カ国協議は不毛な議論に終始する。
6カ国協議で朝鮮半島非核化の枠組みができれば中国外交の成果となるが、そのために米朝対話が不可欠なことを熟知しているのも中国であり、北朝鮮を説得してばかりいるわけではない。両国が米国を共通の脅威と認識し、共同戦線を張っている側面もある。ゴルバチョフ登場後のソ連が北朝鮮支援を中断して以来20年間、中国は黙々と北朝鮮に石油と食糧を援助してきた事実を忘れてはならない。日本のメディアはこの点を完全に見落としている
拉致問題で北朝鮮の対応に苛立ちを強める国内世論は経済制裁発動を訴え、米国の国連安保理付託に期待をかけるが、中国が制裁に反対することは疑う余地がない。米国は朝鮮戦争以来、北朝鮮を経済制裁の対象としており、1980年代のテロ事件でさらに強化した。ロシア、韓国も制裁に同調する可能性はない。経済制裁を叫んでいるのは日本だけなのだ
それよりも「核保有宣言」に振り回され、北朝鮮の脅威に恐れ慄いて、一斉にテレビニュースのヘッドライン、新聞の大見出しに持ってきたのも過剰反応だ。
北朝鮮が実戦配備の核弾頭を完成したとは思われない。最大の根拠は、北朝鮮が過去15年間、使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを抽出・使用する長崎型原爆製造を目指してきたにもかかわらず、一度も核爆発実験をしていないことだ。プルトニウム原爆は、球状の高純度プルトニウムの核分裂反応を誘発するために、中心部に向けて100万分の1秒以下の誤差で爆縮反応を起こさなければならず、高度のハイテク技術を要し、核実験が不可欠だ。過去に実験せずに核保有国となった例は存在しない。
広島に投下されたウラン型爆弾は実験せずに投下されたが、北朝鮮にたとえウラン濃縮計画が存在したにせよ、弾頭製造にまで進んだとは思われない。パキスタンからウラン濃縮用遠心分離器の部品と設計図を輸入したのが事実としても、濃縮には大電力、広大な施設、長期間の反復作業を要する。1メートル以下の物体の移動を解析できるスパイ衛星で監視しているにもかかわらず、米国は北朝鮮のウラン濃縮施設を特定できていない。
以上の理由から、北朝鮮が「核兵器を保有している」とは思われないというのがウィーンのIAEA(国際原子力機関)専門家の共通認識だ。
【『週刊金曜日』2005年2月25日号】