2008年4月10日
日朝関係打開のために対話を再開し、拉致問題は現実的”決着”を図れ
日本政府は、4月13日で期限が切れる対「北朝鮮」経済制裁を延長する方針だが、これ以上圧力一辺倒の政策を続けても拉致問題の“解決”に役立たないばかりか、在日朝鮮人いじめにしかならず、しかも核問題解決をも阻害する結果になりかねない事実を指摘したい。
超党派「拉致議連」は1日の総会で制裁延長を求める決議を採択したが、すでに先月、町村官房長官は拉致問題に“進展”がない限り制裁延長の意向を示唆していた。政府は“解決”と“進展”を使い分けているが、“進展”が何かは定かでない。
拉致問題の“解決”とは、安倍前首相が?(北朝鮮が「死亡」と発表した8名を含めて)被害者全員の「生還」?実行犯の引渡し?全容の解明と明示し、この三点を「入口」に据えて国交正常化の前提条件とした。
これが非現実的であることは政府当局者も認めており、事実上の正常化拒否宣言だ。福田首相もこの方針を変えた形跡はなく、拉致問題をめぐってはメディアも思考停止状態にあり、日朝関係は膠着状態のままだ。
日本政府の経済制裁は一昨年10月の北の核実験に抗議して実施されたもので、その結果、北朝鮮産のアサリやズワイカニは姿を消し、輸入はゼロになったが、日本製品は中国経由で入っているし、その間、中朝貿易と南北交易が飛躍的に拡大し、北の対外輸出は逆に増えている。
金正日総書記を困らせ、譲歩を引き出す目的で、日本の提案で核実験直後の安保理決議に挿入された「ぜいたく品」の禁輸も“しり抜け”で、ステーキもマグロのトロも高級腕時計も平壌の自由市場に出回っている。少しも困っていないのだ。
そもそも経済制裁は相手国の政策転換を促す手段として実効性がなければ無意味だ。実態は、北に親族をもつ在日朝鮮人の人権と生活を圧迫し、日本国民の怒りと憎しみのはけ口になっているにすぎない。
それでも制裁を延長しようという動きの背景には、北朝鮮の「核計画の申告」をめぐって米朝の対立が解消せず、ブッシュ政権が見返りとして約束している「テロ支援国家」指定解除が先送りになっているという状況がある。制裁延長の決定は指定解除をさせまいというダメ押しでもある。それは正しい選択肢だろうか。
ブッシュ政権にいつまでも指定解除させないために圧力をかけることは、核問題の解決を先延ばしにし、朝鮮半島非核化を阻害するという結果になりかねない。拉致問題が未解決なら日本は北の核保有を容認するというのだろうか。そうなれば、北としてはブッシュ政権との交渉を断念するとともに核保有を既成事実化し、さらに国際社会が警戒する中東地域への核技術移転を続けるという選択肢を手にすることになる。それが日本国民の本意なのだろうか。
日本の制裁延長は米国を道連れにして、北京の6カ国協議の枠組みをも事実上崩壊させてしまいかねない決定なのだ。しかし周辺諸国が北朝鮮の崩壊・暴発を望んでいない以上、北が譲歩を迫られることにはならない。金正日総書記は米次期政権と仕切り直しして交渉する戦略を練っているという情報もある。
制裁を延長して不毛な対決を続けるよりも、対話を再開して現実的な"決着"を図るべきではないか。拉致をめぐる日本の対応は全面屈服を求めるゼロ=サムゲームの論理だ。相手の面子も立てながら双方が得をしたと思えるウィン=ウィン方式以外に解決策はないと思われる。
【毎日新聞2008年4月6日付「発言席」】