2009年1月15日
オバマ政権下で米朝関係は進展必至/日朝関係打開には拉致を「出口」に
去る8月に脳卒中で倒れた金正日総書記は順調に回復していると伝えられるが、真相は定かではない。北朝鮮当局は、総書記のサッカー観戦、前線兵士の鼓舞、工場視察などの姿を次々に公開しているが、いずれもスティール写真で日付が不明な上、合成写真の疑惑が出たものもあり、決め手に欠ける。外国の賓客に会い、その証言が得られれば“決定打”になるが、いまだに実現していない。何より肉声が聞こえてこない。
しかし朝鮮半島非核化をめぐる米朝交渉や6者協議に臨む方針は病床から陣頭指揮し、いわゆる“病床統治”をしているらしく、8月以降も北朝鮮の瀬戸際外交にはブレが見られない。
中国政府筋の情報によると、実力ナンバー・ツーの義弟、張成沢・労働党行政部長が執務を代行しているとされるが、集団指導制に移行するのは時間の問題と思われる。その場合、権力の移行は、混乱なくスムーズに行なわれると見るべきだ。
オバマ米政権も核不拡散を最優先課題とすることに変わりなく、対話による朝鮮半島非核化を進めるだろう。就任前は「金正日との直接会談も辞さず」と公言していたが、最近は6者協議の進展を重視する態度に変わっている。
外交の継続性からすれば当然で、今後時間をかけてブッシュ政権がやり残した課題、つまり「検証可能な非核化」の確認作業ならびにその見返りとしての米朝国交正常化(米朝平和条約締結)、平和利用の軽水炉供与などの課題と取り組むことになる。このプロセスはオバマ政権1期目の4年一杯、つまり北朝鮮が「強盛大国の大門が開く」年とする2012年までかかるだろう。
ひるがえって拉致問題解決を交渉の「入口」に据えている日本はどうするのか。ブッシュ政権は「拉致被害者のことは忘れていない。オバマに引き継ぐ」というリップサービスでテロ支援国家指定を解除した。オバマ政権は日本に“義理立て”する筋合いはなく、北朝鮮ともイランともどんどん交渉を進めるだろう。核不拡散論者は民主党にこそ多いのだ。
日朝国交正常化は、現在の交渉の起点となっている2005年9月の6者協議「共同声明」で共通の目標として確認した合意事項でもあり、米朝交渉が進めば日本はワシントンからの外圧で追随を迫られることになる。つまり日本だけが拉致問題未解決を口実に合意に背を向け、単独経済制裁を続けているわけにはいかなくなる。
日本国内には、脳卒中発症を奇禍として金正日体制消滅まで日朝国交正常化をせず、小泉首相が『日朝平壌宣言』で約束した「過去の清算」もしないですませようという右翼勢力があり、拉致をめぐる国民の怒りを都合よく利用しているのが実態である。伝えられる「家族会」の内部分裂には、こうした思惑をめぐる対立が背景にある。
オバマ政権が朝鮮半島非核化を着実に進め、北朝鮮を北東アジアの責任あるステークホルダーとして扱おうとしている現状から、日本だけが強硬路線に固執するのは愚策以外の何ものでもない。拉致を「入口」におくことは、6者協議における日本の孤立を深めるだけでなく、核問題の解決を妨げ、北東アジアの平和を阻害することになりかねない。
【『ポリシーフォーラム』2009年1月号巻頭言】