2009年3月13日
北朝鮮「人工衛星」打ち上げは4月4−8日と公式発表
北朝鮮が「4月4日から8日の間に人工衛星を打ち上げる」と公式発表した。この期間は、このほど選出された新規代議員からなる「最高人民会議」開会時期で、金正日総書記が国防委員長に三選される予定。また北朝鮮全土は「花まつり」を祝い、4月15日は「太陽節」(金日成の誕生日)でもある。
ロケットの落下予定海域も明示し、1段目は日本海、2段目は太平洋の公海上の海域を指定、IMO(国際海事機関)とICAO(国際民間航空機関)に通報した。同時に、北朝鮮は従来未加盟だった「宇宙条約」(1967年発効)など関連の国際条約に加盟したことを公表した。「宇宙条約」は加盟国の宇宙空間平和利用を保証したもので、これによって北朝鮮は名実ともに人工衛星発射の権利を確保したことを意味する。
北朝鮮はこれで国際法上の手続きを終え、打ち上げ前の万全の態勢を整えたことになる。
北東部の舞水端里(北朝鮮の呼称は「東海発射基地」)にはすでに1ヵ月以上前からロケット本体が運び込まれ、あとは発射台の組み立てと液体酸素注入を待つばかりとなっているが、狙いは、国威発揚とともに、オバマ政権との直接交渉における取引のカードを1枚増やすことにある。この種の実力行使が従来いつも成功しているだけに、今回も打ち上げは確実である。
日米韓の3国は「テポドン2号」(推定射程6000キロ)と呼び、核弾頭搭載可能のミサイルと断定、「弾道ミサイル関連計画の停止」を求めた2006年10月の国連安保理決議1718違反として、さらなる制裁を課す構えだが、北朝鮮は、通信・気象観測・資源探査のための人工衛星「光明星2号」であり、打ち上げに用いられるのはロケット「銀河2号」だとして、「人工衛星打ち上げは国家の自主権」と一貫して主張してきた。
ミサイルか人工衛星かは目的が異なるだけで、技術的には変わりない。米ロ両国も今ではお互いの宇宙飛行士を宇宙に運び、協力し合っているが、米ソ冷戦のさなかには熾烈なミサイル開発競争をくり広げ、いわば余力を使って宇宙開発に技術転用したにすぎない。現在、地球の周りの軌道には、約1万個の人工衛星とその破片が回っており、日本が打ち上げた人工衛星もある。
円筒形の推進体も、軍事利用なら「ミサイル」(ラテン語で「抛るもの」の意)、平和利用なら「ロケット」(イタリア語で「糸巻き棒」に由来)と呼び分けているが、第二次世界大戦中、ヒトラーの命令でドイツのフォン・ブラウン博士が開発した当初はすべて「ロケット」と呼ばれていた。軍事利用でも「小型ロケット砲」」という表現は残っている。
ウラン、プルトニウムという放射性物質を利用する点で同じだが、日本語で、軍事利用には「核(弾頭・兵器)」を、平和利用には「原子力(発電)」を用いて、使い分けているのに似ている。英語では、いずれも ”nuclear” だ。NPT(核不拡散条約)に加盟すれば、「原子力平和利用」はすべての国の権利として保証されている。
ちなみに、イランも2月3日、人工衛星「サフィール2号」を打ち上げたが、国際社会は”お咎めなし”だった。イランの場合は、核開発はまだ初期段階で、核弾頭保有には至っていないのに対し、北朝鮮はすでに6−10個(CIA推定)の核弾頭を保有していると推定されている点が異なる。
日米韓が北朝鮮の「人工衛星」打ち上げを国連安保理に持ち出し、さらなる制裁決議案提出となっても、拒否権をもつ中ロ両国が賛成するとは思われないので、抽象的な文言の警告決議案か議長声明におさまる可能性が強い。オバマ政権の本音も、北朝鮮と対決し、米朝交渉の前途を危うくするような制裁は避けたいところだ。
結局、日韓(前回は日本だけ)が大騒ぎするだけで終わるだろう。
1998年8月31日の「テポドン1号」発射の直後、私は平壌にいた。日本国内は「日本に向けてミサイル発射」「残骸が三陸沖に落下」とパニック状態だったが、北朝鮮当局は4日後に「人工衛星打ち上げ成功」と発表。米国も10日間の沈黙ののち、NASA当局が「精査の結果、打ち上げたのは人工衛星だった」と認め、「搭載していた観測器材は地球をまわる軌道には乗らなかったようだ」と発表した。このとき国連安保理は穏やかなトーンのpress statement (報道機関向け声明)を発表しただけだった。
このあとクリントン政権は真剣に北朝鮮との交渉再開を模索、ウィリアム・ペリー元国防長官を特使に任命して関係国と協議、その結果、「いかに困難でも金正日体制を認め、(武力によらず)交渉によって解決すべきだ」という報告書を提出した。これが”ペリー・プロセス”だ。結局、時間切れで交渉はまとまらず、2000年11月の大統領選挙におけるブッシュ当選で舞台は暗転した。「歴史は繰り返す」である。