2009年3月27日
日本国民の被害者意識と敵対感情を増幅する「人工衛星打ち上げ」報道
北朝鮮の「人工衛星」打ち上げに対して浜田防衛相は、27日、「破壊措置命令」を出し、イージス艦装備のSM3と地対空誘導弾PAC3の移動・配置を命じた。まるで開戦前夜のようなものものしい警戒ぶりである。
事前の情報では、「人工衛星」打ち上げに用いられるロケットは射程6000キロ以上の「テポドン2号」と同じもののようだが、そもそも日本に飛来するものではなく、万が一にも日本本土、領海、領空を侵犯する可能性はない。軌道を大きく逸れたり、うまく着火しなかった場合には、地上からの指令で自爆装置が働く仕組みになっている。2006年7月の実験で実証済みである。
そもそも軌道をそれて飛来するロケット弾あるいはその破片の位置と速度を予測し、計測するのは不可能であり、これを迎撃するなど正気の沙汰ではない。政府筋(実は鴻池官房副長官)がいみじくも認めたとおり、「当たりっこない」のだ。拉致と並んで、北朝鮮に対する怒りと憎しみの意思表示にすぎない。
ミサイルが「発射後、日本海上空を飛び、秋田沖の海上に(第1段階の)残骸が落下し、日本列島をまたいで銚子沖(前回は「三陸沖」)に(第2段階の)残骸が落下する」という類の報道が目立つ。まるで日本列島がターゲットになっているかのようだ。「銚子沖」といっても、沖合から2100キロ、太平洋のど真ん中の公海上だ。
浜田防衛相は「人工衛星にせよ、ミサイルにせよ、日本上空を飛び越えていくのは不愉快極まりない」と記者団に語っていたが、およそピント外れの発言である。
ロケット(ミサイル)が日本列島上空を飛んでも、そこはすでに宇宙空間であり、日本の領空侵犯とはならない。上空100キロ以上に領空権は存在しない。地球のまわりの宇宙空間には現在1万個もの人工衛星とロケットの残骸がいっしょに回転している。日本も1970年の「おおすみ」以来10個以上の人工衛星を打ち上げている。
日本人の被害者意識を刺激し、敵対感情を煽る報道とコメントを額面通りに受け取らないよう自戒すべきだ。日本のメディアの「北朝鮮」報道は、著しく客観性を欠いている。
「大山鳴動してネズミ一匹」騒ぎの効用があるとすれば、MD(ミサイル防衛網)に投じている総額1兆円以上の開発資金の恩恵に浴している日米の軍産共同体であろう。彼らは金正日総書記に足を向けては寝られない筈だ。