2007年12月07日
ミシュラン騒動にもの申す
フランスのタイヤメーカー「ミシュラン」の日本上陸は大成功、タイヤでなく、レストラン格付けで東京を瞬く間に制圧した。
ミシュラン社が自動車普及のためにフランス各地のレストラン・ガイドをドライバーに無料配布し始めたのが1900年。1930年代からはレストランの格付けをして、おいしい店を推薦して食通を満足させた。コックたちも競って腕を磨くようになり、タイヤ会社がフランスの食文化向上に貢献した。
レストランの格付けは、三ツ星が「(そこで)食事するために旅行する値打ちのある店」、二つ星が「寄り道をしても訪ねる値打ちのある店」、一つ星が「とくにおいしい店」の3段階に別れ、毎年更新される。ミシュラン社に雇われた覆面調査員が一年中食べ歩いて星を加えたり、減らしたりしている。星印を減らされたコックが失意のあまり自殺したというエピソードも残っている。
毎年増減はあるが、フランス全土では三ツ星が20軒(このうち10軒がパリ)、二つ星が100軒、一つ星が500軒だが、星がついてなくても紹介されているだけでありがたがるレストラン経営者は多い。
ミシュランはホテル・ガイドも兼ねており、赤表紙がレストランとホテル(ホテルは5段階評価)、緑の表紙が名所旧跡中心の観光ガイドで、ドライバーに限らず、誰にとっても便利この上ない旅の伴侶ではある。フランスだけでなく、欧州各地のガイドが赤も緑も出ており、言語もフランス語のほか、英語・イタリア語・スペイン語などの現地語版が揃っている。
このほどニューヨーク版に続いて初めてアジアに進出、赤の東京版が出たわけだが、1年余りの覆面調査員の食べ歩きの成果は、三ツ星が8軒、二つ星が25軒、一つ星が117軒、合計150軒が星つきで紹介され、ニューヨークを抜いてパリと並び、東京は世界一のグルメ都市と評価された。ちなみに手許にスペイン版があるが、スペイン全土で三ツ星ゼロ、二つ星7軒、一つ星48軒。首都マドリードは三ツ星ゼロ、二つ星4軒、一つ星12軒、ぐっと格落ちしている。
それにしても、東京版の初版12万部が4日間で完売、都心の書店では開店前から行列が出来て30分で売れ切れ。三ツ星付の栄冠に輝いたすし屋の「すきやばし次郎」、日本料理の「濱田家」、フランス料理の「ジョエル・ロブソン」などには予約が殺到、半年先まで満卓だという。いささか異常ではないか。以下、異論を唱える。
(1)日本人は国際的な権威に弱く、食文化ではフランスが最高と思い込んでいるため、ミシュランの評価を鵜呑みにしすぎている。同じレストランの格付けガイドでも米国の「ザガットサーベイ」東京版が存在するが、とんと話題にならない。はるかにバランスがとれていて、英米人はこの方が信用できると思っている。
(2)同じフランスでも、ミシュランほどの伝統はないにせよ、クレベール、ル・ボタン・グルマン(食通案内)など数種の類書が存在し、本国で人気を競っている事実を知る必要がある。ミシュラン絶対ではないのだ。
(3)東京版刊行にあたって、ミシュラン社はまず都内のレストラン1500軒を選び出して、その中から調査員が試食して格付けをしたのだが、都内23区の中で選ばれたのは都心部の9区内に限られ、場所が偏りすぎている。
(4)料理の種類も日本料理とフランス料理に限られ、三ツ星は日本料理5軒、フランス料理3軒、二つ星でも日本料理16軒、フランス料理6軒、あとはイタリア、スペイン、中華料理が各1軒。とくに中国本国より美味といわれる中華料理が1軒だけ(一つ星を加えても4軒)というのはおかしくないか。逆に外人好みの寿司屋が多すぎる。
異論を挙げていったらキリがない。皆さん、馴染みの店に自分なりの星をつけてみてはどうですか。【『電気新聞』2007年12月3日付】