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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

  • 設立宣言
  • 活動実績
  • 入会申込書
  • 代表・役員
  • ニューズレター

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TOP > その他 > ダルフール大虐殺をご存じか

2007年6月18日

ダルフール大虐殺をご存じか

 均質性の高い民族が極東の外れの列島に集中的に住む日本ではナショナリズムが麻疹のように広がりやすい。北朝鮮や中国の"脅威"を待つまでもなく、欧米暮らしの長い私は、オリンピック、(日本人が受賞した場合の)ノーベル賞や国際映画祭、G8サミットなどをめぐる熱狂ぶりに異和感をおぼえる。日本ほどお祭騒ぎする国は先進国では他にない。

 メジャーリーグでプレーする日本選手の一挙手一投足を衛星放送で生中継し、朝から晩までテレビニュースのヘッドラインにする必要があるのだろうか。彼らは個人契約で渡米したのであり、日本国を代表してプレーしているわけではない。野球の本場アメリカの桧舞台で投打に活躍しているからといって、国を挙げて称えるべき慶事ではあるまい。

 災難についてもあてはまる。むかしNHKの記者だったとき、人種別の海外ニュースの判断基準なるものをたたき込まれた。「アフリカの黒人は1000人、アジア人は100人、白人は10人死ねばニュースになる。日本人は1人死んでも大ニュースになる」。自国民中心主義はどこの国にもあるが、極端すぎる。「外国で飛行機事故が起きたら、日本人が乗っているときだけニュースにしろ」とも教えられた。これも極論だが、根本の発想はいまも変わらないのではなかろうか。

 前置きが長くなったが、アフリカのスーダンで起きていることに日本国民は無頓着すぎないか。スーダンは、エジプトの南、エチオピアの西に位置する内陸国で、人口3600万、アラブ系住民と黒人住民の争いが絶えず、1956年の独立以来すでに200万以上の死者を出したとされているが、とくに2003年から西部ダルフール地方で本格的な大虐殺が始まり、過去4年間だけで死者40万、家を追われた住民250万以上と推定されている。

 理由は、アラブ系主体の中央政府がアラブ民兵の力を借りて、黒人反政府組織の反乱を口実にダルフール全域の黒人住民を無差別攻撃、ジェノサイド(民族浄化)を行っているためで、度重なる国連安保理決議も、AU(アフリカ連合)の仲介も効を奏していない。PKO(国連平和維持活動)も派遣されたが、「手が出せない」状況で、黒人住民の人家の焼討ち、集団暴行、無差別空爆が続いている。中央政府がまったく機能していない破綻国家の典型だ。

 欧米のメディアが「史上最大の人道危機」として連日スペースを割いて報道している中で日本は無関心を貫いた。ハイリゲンダムのG8サミットでもスーダン政府批判の共同声明が採択されたが、温暖化対策一色の日本のメディアは黙殺した。
 問題は、中国が一枚どころか、二枚も三枚もかんでいることで、さきの仏大統領選で敗れた左派のロワイヤル候補が北京オリンピック・ボイコットを呼びかけて話題をまいたが、米下院本会議もオリンピック・ボイコットも辞さずの強硬な決議案を全会一致で採択した。

 理由は、スーダンが産油国、現在日量30万バレルの輸出を将来100万バレルに増量の見込みで、そこに目をつけた中国はスーダン政府の求めるままに大量の武器援助を行っており、これが黒人住民虐殺に使われているというのだ。中国はスーダン政府制裁の国連安保理決議にも棄権し、和解交渉を呼びかけているものの具体的な動きはしていない。ことし2月には胡錦涛主席が首都ハルツームを訪問、スーダン政府援助強化を約束した。原油の7割は中国に輸出され、スーダンの武器の7割も中国製あるいは中国経由のロシア製だという。

 2005年に対スーダンODA(政府開発援助)再開を決定した日本は、安倍首相が再検討を表明したが、さしたる動きはしていない。民主党の岡田克也副代表は現地を視察したが、この人道上の危機を国会で取り上げる気配はない。

【『電気新聞』2007年6月18日付「時評」ウェーブ欄】

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