2005年12月25日
21世紀はインドの時代/注目浴びるインドの光と影
全世界が投資・貿易相手としてインドに熱いまなざしを向けている。
米国の投資銀行ゴールドマン・サックス社が「21世紀はBRICsの時代」と予測、市場としての将来性に注目したのが2003年10月、その後、実績が徐々に評価されて、この予測が先進国の投資家のバイブルとなった。
BRICsとは、ブラジル(B)、ロシア(R),インド( I )、中国(C)の4カ国(sは複数)。予測では、2025年までに中国とインドはGDP(国内総生産)で日本を抜き、2050年には米国と並ぶ世界の三大経済圏になるというのだ。なかでもインドは30年以内に人口16億を突破、中国を抜いて世界一の人口大国になると推定されている。現在、中国は人口13億、インドは11億で、すでに両国の差は縮まっている。2050年にはインドの人口は20億に達する見込みだ。
この両国に比べると、ブラジルとロシアは人口がいずれも1億5000万前後、ロシアは原油が豊富だが人口は減少気味。ブラジルは農業、森林資源、鉄鉱石などに恵まれてはいるが、ハイテク産業は遅れている。
人口と国土の広さ、地下資源もさることながら、最大の尺度は、発展に寄与する人材の層の厚さ、勤勉、創意、団結力などだ。その点、インド人の能力は国際社会で証明済みである。海外で働くインド人は米国を中心に2000万人に達する。インド国内の経済成長率も過去10年間に平均6.8パーセントを記録、成長率は中国に迫っている。中産階級が急激に増え、4億を超える勢いだ。
アーリア民族の血を引くエリート層のインド人はおしなべて利発聡明で、思考は理詰めで論理的、理数系に強く、全国に250校を数えるインドの大学の8割は理科系が占め、とくに引く手あまたのインド工科大学は主要都市8カ所に設置され、平均倍率50倍。そこから巣立った人材がハイテク産業の裾野を広げている。そういえば、ゼロという概念を発見したのも古代インド人だ。
インドのシリコンバレーと呼ばれているのが南部のバンガロール。その他、ムンバイ(旧名ボンベイ)、コルコタ(旧名カルカッタ)、チェンナイ(旧名マドラス)にIT産業の中枢があり、技術者だけで全土で100万人を超える。最近は米国からのアウトソーシング(ソフトの外注)が目立っている。
インド人はほとんど全国民が英語をしゃべる。大英帝国の植民地だったインドでは、旧宗主国の母語である英語を身につけることが立身出世の秘訣だった。それが現代インド人の遺産となっており、そこが日本、韓国、中国と大いに異なる点だ。独立後も多民族国家となり、共通語が存在せず、英語が公用語として残った。インド政府は一時は多数派の母語であるヒンディー語を国語にしようと試みたが、少数民族の反発で不成功に終わった。現在インドの公用語はヒンディー語のほかに17を数え、結局、英語が公務の共通語となっている。
それが英語の世界支配という現実の中で有利に働き、インド人の活躍の場を広げ、思わぬ収入源となっているのだから皮肉この上ない。人件費の安いインドは、米国企業のコールセンターの基地も提供している。米国企業に電話すると、訛りのあるアクセントの強い英語が返ってくることがある。インド人がインドで応答しているのだ。
国連でも"インパキ・マフィア"と呼ばれる集団が重きをなしている。英語が巧みで、口八丁手八丁のインド人・パキスタン人職員は要領もよく、出世が早い。どこの部署にもそんなインド人が必ずいる。
もちろん、いいことづくめではない。インド人の大半を占めるヒンズー教徒には身分制社会の名残りとしてカースト制度が存在し、平等社会の実現を阻んでいる。公式には1950年の新憲法で廃止されたが、3000年続いた慣習が一片の法律で消滅するものではない。
「インドは世界最大の民主主義国家だ」とインド人は自慢するが、人口の上で最大規模でも、たとえば、シュードラと呼ばれる身分の低いカースト出身者には職業選択の自由も、栄達出世の機会も与えられていない。カーストは世襲で、カースト間の移動は許されない。カーストは4段階に分かれるが、さらに最下層にアチュード(アンタッチャブル)を呼ばれる「不可触賎民」がいて、その数およそ1億と推定されている。
そうでなくても、経済の高度成長で貧富の差が開いており、同じ悩みをかかえる中国とともに、その対策が中央政府にとっての挑戦となっている。身分差別と貧富の差の解消という問題を克服しない限り、インドが胸を張って、21世紀を代表する国として名乗りをあげることはできない。
もうひとつ、1998年、パキスタンとともに核実験を実施、核保有を宣言し、NPT(核不拡散条約)体制に挑戦していることだ。インドにとって北隣りの中国が脅威であり、中国を核保有国として公認している不平等条約のNPTが悪いということになるが、イラン、北朝鮮の核開発を刺激したことは事実だ。最近、米国は既存の核兵器には目をつぶって、原子力平和利用でインドに協力する方針に転換したが、両国とも核兵器廃絶に努力してほしいものだ。
【『世界日報』2005年12月25日付「サンデービューポイント」欄】