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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

  • 設立宣言
  • 活動実績
  • 入会申込書
  • 代表・役員
  • ニューズレター

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2004年11月11日

日本人に欠ける情報発信能力

 イチローが米大リーグ年間最多安打の記録を84年ぶりに塗りかえた。マリナーズ球団は試合のさなかに特別表彰式を催して彼の偉業を祝福したが、日本人ヒーローは手を挙げ、帽子をとって会釈しただけで、ひと言も発しなかった。海外生活の長い筆者にとって、たいへん違和感のある光景だった。

 イチローは渡米して4年間大リーグでプレーしている。仄聞するに、彼のヒアリング能力はほぼ完璧、仲間うちでは英語でジョークもとばすというが、公式の場でひと言の英語も口にせず、インタビューも日本語でだけというのは淋しい。ゴジラ松井も同様で、英語のインタビューには応じない。試合後のお立ち台で、カタコトの日本語で愛嬌を振りまくガイジン選手とは対照的である。大リーグの日本人選手は、ひたすら職人に徹し、寡黙な一匹狼の印象が強い。

 プロ野球界という特殊な世界では許されるにせよ、公式の場でもの言わぬ人間は、「はじめにコトバありき」の欧米社会では、無視されるか二流扱いされる。寡黙は美徳ならず、悪徳なのだ。

野球は技量と実績がすべてだから、花形プレーヤーである限りは珍重される。野茂も寡黙だ。燃え尽きれば選手生命も終わるからそれで済む。

 しかしビジネス、外交、ましてや情報収集が主目的となると、そうはいかない。寡黙な日本人には不得意な領域だ。日本が経済大国になったのは、メード・イン・ジャパンの品質がすぐれていたからで、セールスマンが口八丁手八丁の売り込み上手だったからではない。NHKテレビ「プロジェクトX」には新製品開発の蔭で人知れず努力する技術者の苦労話が次々に登場し、視聴者の涙を誘う。

 イラクには大量破壊兵器が存在しなかったことを認める米政府調査団の報告書が公表された。ブッシュ=ブレア米英両政権による情報操作だった。ブッシュ大統領は脅威の対象をすりかえ、ブレア首相は陳謝した。独自の情報収集能力のない日本は終始、対米追随を余儀なくされたが、小泉首相の往生際は悪かった。国連決議に従わないフセイン政権の非を責めるヘリクツをこね回して開き直った。

 そこで出てきたのが、日本版CIA (中央情報局)をつくって独自の情報収集能力を持つべしという勇ましい議論だが、米英に匹敵する情報収集機能など容易に備えられるものではない。まず人材が存在しない。寡黙を美徳とする日本社会はこの種の人材を殺してきたのだ。単に語学力を身につければ済む話ではない。異文化社会に首からとっぷり溶け込んで仲間内で情報を共有しなければならない。

 日本人が得意なのは、腹芸、以心伝心、気配り、根回し、いずれも均質民族が培ってきた行動様式で、それなりの情報収集は可能だが、範囲は気心の知れた同質社会に限られる。情報技術だけがいくら発達しても、異文化社会に対する感受性が乏しいと情報収集も不可能だ。

 国際機関の日本人職員は、おしなべて地味で、生真面目。実務には長けていても駆け引きと立ち回りは下手で不得意。自分の技能の発揮に徹するだけというイチロー型人間が多い。

 情報というのはギブアンドテークで集まるもので、受け身の姿勢では限界があり、新聞記事の寄せ集め情報で終わってしまう。外務省が説く日本の国連安保理常任理入りの目的に「情報が入るから」というのがあるが、動機が消極的で情けない。常任理入りして入手できる情報など二番煎じのものでしかない。

 日本人は、学者も政治家もジャーナリストも、国外に向けてもの申す情報発信機能を備えていない。新聞もテレビも内向きで、その場しのぎで、場当たりのコメントでお茶を濁している。情報発信機能の弱い国に情報収集能力が育つはずがない。自力で情報収集できない限り、独自の外交・安保政策を確立するのは不可能だ。

【『電気新聞』2004年11月11日付時評「ウェーブ」欄】

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