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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

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国連改革
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2009年1月17日

2008年の国連の活動 <ブリタニカ国際年鑑2009年版収録>

2009年は何の年

国連は2009年を「国際和解年」「国際天然繊維年」「世界天文年」に指定している。

 

「国際和解年」は、すべての紛争当事者を関与させて恒久平和確立に必要な和解プロセスの進展を追求する機会が国際社会に生まれることを目指す。

 

「国際天然繊維年」は、2005年のFAO(国連食糧農業機関)総会決議を受けて決まったもので、多様な天然繊維が農民の収入源となり、食糧安全保障、貧困根絶、さらにミレニアム開発目標(MDGs)達成に重要な役割を果たすことを期し、国際社会の認識を高める機会とする。

 

「世界天文年」は、2005年のユネスコ総会決議を支持して指定されたもので、ガリレオの望遠鏡による宇宙観測開始400周年を記念して、天文学が基礎科学の発展と持続可能な開発に果たす役割に対する世論の認識を高めることを目指している。

 

加盟各国は官民合同の国内委員会を設けて行動計画を策定、記念行事を開催することが要請されている。

 

潘基文事務総長初来日

潘基文事務総長が6月28日から4日間、前年1月の就任以来はじめて日本を公式訪問、福田康夫首相、高村文彦外相ら日本政府首脳と会談したのをはじめ、天皇・皇后両陛下、皇太子殿下夫妻に謁見、さらに離日後再来日し、洞爺湖G8サミットに出席した。

 

福田首相との会談で潘事務総長は、日本政府がUNMIS(国連スーダン派遣団)への自衛隊派遣ならびに国連平和維持活動訓練・教育施設(PKOセンター)への財政支出を決めたことを歓迎し、平和構築に対する日本の積極的貢献を高く評価した。

 

潘事務総長は祖国・韓国と中国も初訪問、李明博大統領、胡錦涛国家主席とそれぞれ会談した。

 

日本、安保理非常任理に

日本は10月の安保理非常任理事国改選で、ライバルのイランに大差をつけて当選、2009−10年の2年間つとめることになった。非常任理事国としての日本の安保理入りは2005−06年に続いて通算10回目、国連加盟国(192カ国)中最多となる。当初「アジア枠」から立候補を表明していたモンゴルを辞退させて割り込んだもので、外務省は常任理入りの布石として重視している。

 

日本のほかに当選した非常任理事国は、ウガンダ(アフリカ枠)、メキシコ(中南米枠)、トルコ、オーストリア(西欧その他の枠)の4カ国。

 

これより先、5月の人権理事会(47カ国で構成)でも日本は向こう3年間の任期で再選を果たした。人権理事会は2005年の国連改革の一環として発足したもので、日本は創設以来のメンバー。今回改選されたアジア枠は4カ国で、日本のほかは韓国、バーレーン、パキスタン。

 

総会で議長が異例の大国批判

第63回総会は9月16日開会、議長に選出されたミゲル・デスコト氏(ニカラグア元外相・現大統領顧問)は開会演説で、「一部の安保理常任理事国が戦争依存を断ち切れず、国際平和と安全に対する脅威となっている」「世界銀行とIMF(国際通貨基金)は米欧支配の道具と化している」などと異例の大国批判を繰り広げた。

 

デスコト氏は反米の闘士として知られるており、同氏が「中南米枠」から推挙されたことにラテンアメリカ諸国のブッシュ政権批判の姿勢がうかがわれる。

 

麻生首相の総会演説

9月24日に就任したばかりの麻生太郎新首相はニューヨークに飛び、25日総会で演説、(1)5月末に横浜で開催されたTICADVI(第4回アフリカ開発会議)の成果を踏まえてアフリカの貧困克服に一層努力する、(2)温暖化対策では洞爺湖サミットの合意を進めるためセクター別アプローチを提案している、(3)北朝鮮の核廃棄とともに拉致問題の解決を求め、その上で日朝関係を進展させる方針である、(4)安保理改革を提唱、日本は非常任理事国に立候補している、(5)IAEA(国際原子力機関)次期事務局長に天野之弥大使を立候補させているなどの点を列挙し、各国の支援を要請した。 

 

日本提出の核廃絶決議案、最多の支持あつめる

総会は平和・軍縮分野だけで57本の決議案を採択したが、このうち2本が新規の決議案。1本は武器の不法取引を禁止したもの、もう1本がクラスター爆弾禁止条約を支持し、事務総長に必要な援助をするよう指示したもの。クラスター爆弾禁止条約は2008年5月ダブリン(アイルランド)で締結、12月オスロ(ノルウェー)で署名式が催され、日本を含む90カ国以上が署名したが、米中ロなどの大国は不参加。

 

日本は1994年以来、毎年、独自の核軍縮決議案を総会に提出して採択に持ち込んでいるが、2008年は「核兵器の全面的廃棄に向けた新たな決意」を表明するとともに、核保有国に対し、「透明性のある方法で核兵器削減を要請する」との文言を加えた決議案を提出、賛成173、反対4(米、インド、北朝鮮、イスラエル)、棄権6(中国、イラン、ミャンマー、パキスタン、キューバ、ブータン)で採択された。賛成票数は、これまでで最多を記録した。

 

北朝鮮、ミャンマー、イランの人権状況非難決議案採択

総会は、12月、法的手続きを経ず国民の身柄の拘束、拷問、死刑執行を行い、移動の自由も制限しているとして、北朝鮮国内の人権侵害を非難、合わせて日本人拉致問題をめぐる北朝鮮の対応を批判、さらにミャンマーにおけるアウンサン・スーチーさんの軟禁継続、イランにおける少数民族差別拡大に懸念を表明した、それぞれの決議案を賛成多数で採択した。

 

北朝鮮非難では、前年まで棄権していた韓国がはじめて同調、共同提案国に名を連ねた。北朝鮮非難決議案では4年連続の採択だが、採択後、北朝鮮代表は「拉致問題ではやるべきことはすべてやった。日本こそ過去の朝鮮人強制連行に対する償いをしていない」と反論した。

 

総会、死刑執行停止決議案採択

総会は、12月、(死刑制度の存続している加盟国での)死刑執行の一時停止を求める決議案を賛成多数で採択した。賛成は106カ国、反対は、日本、米国、中国、北朝鮮、イランなど46カ国、棄権は34カ国。同趣旨の決議案提出は2年連続で、賛成が6カ国増えた。

 

日本は前年同様、「わが国の世論調査では死刑が圧倒的に支持されている」として反対票を投じた。これに対し、フランス、イタリアなどEU(欧州連合)諸国は「人権尊重の立場から死刑廃止、少なくとも執行停止すべきである」と訴えた。主要先進国で死刑が存続しているのは日本と米国だけ。しかも米国では州によって異なり、3分の1以上が廃止している。

 

人権委、日本の死刑制度を批判

こうした国際世論を反映して、国連規約人権委員会は10月、対日審査の結果を最終見解として公表、日本の死刑存続をきびしく批判した。同委員会は、国連で採択された人権関連規約の遵守状況を審査しているもので、対日審査は10年ぶり。

 

「死刑廃止条約」は1989年の国連総会で採択、死刑廃止が世界の潮流になっているにもかかわらず、日本では逆に死刑執行件数が増え、しかも本人に対する告知が執行の当日であることを問題視している。

 

国内世論の死刑存続支持を根拠にしている日本政府に対して、人権委員会は「国内世論に関係なく死刑廃止を検討すべきだ」と勧告、「廃止が困難なら当面、死刑執行を先送りすべきである」と結論づけた。国連の調査では、死刑廃止ないし事実上停止している国は141、存続しているのは56だが、実際に執行している国は、2007年現在24カ国に減少している。

 

同委員会は、従軍慰安婦問題でも法的責任を認め、生存している慰安婦に対し謝罪し、十分な補償を行うよう日本政府に勧告した。

 

12月10日は世界人権宣言採択60周年

「世界人権宣言」採択60周年の12月10日、総会は記念本会議を開き、「人権と基本的自由がいまだに全世界で守られていない現状に遺憾の意を表する」とともに、宣言に盛り込まれた人権の実現を誓約する決議案を採択した。潘基文事務総長は「人権は国連のアイデンティティーの中核であり、われわれは人権遵守のために共に行動しなければならない」と述べた。

 

この日を記念して世界の人権活動家7名に「国連人権賞」が授与されたが、その中には、07年12月に暗殺されたパキスタンのべナズィール・ブット元首相が含まれた。また宣言採択の地パリ(シャイヨー宮)をはじめ、ニューヨーク、ベルリン、東京などで、この日を記念して多彩な行事が開催された。

 

アフリカ情勢が最多、ソマリアだけで10本の安保理決議

安全保障理事会は年間65本の決議案を採択したが、このうち半分以上の37本がアフリカの紛争、武力衝突、情勢不穏をめぐるもので、中でもソマリアの海賊対策だけで年間10本を数えた。

 

ミトロプーロス IMO(国際海事機関)事務局長が11月、安保理に対して行った報告によると、2008年だけで120件以上の海賊事件がソマリア沖で発生、65隻の外国商船が乗っ取られて600人以上の乗組員が人質に取られ、被害総額は2500−3000万ドルに達するという。

 

こうした事態を受けて、安保理は12月、加盟各国に対しソマリアの領海・領土・領空に進入して軍事行動をとることを認める決議案を全会一致で採択した。これで陸海空の全域における軍事行動展開が認められた。本来なら主権侵害にあたる行動だが、ソマリアは1991年いらい無政府状態にあり、異例の決議案採択となった。

 

ソマリア以外では、ダルフール(スーダン)、コンゴ民主共和国の内戦に対する国連PKO(平和維持活動)の延長と増強をそれぞれ認めたもの、他方シェラレオーネ、エチオピア情勢悪化を憂慮するものなどが主で、他地域では中東、アフガニスタン、旧ユーゴ(コソヴォ)対象とする決議案だった。

 

世界人口も飢餓人口も増加

UNFPA(国連人口基金)は、11月、「世界人口白書」を発表し、世界の人口は67億4970万に達したことを明らかにした。前年比1億3380万の増加。

 

他方、FAO(国連食糧農業機関)は12月、深刻な食糧危機のために世界の飢餓人口が前年比4000万増の9億6300万に達したと発表した。地域ではアジアとアフリカに集中、インド、中国、コンゴ民主共和国など7カ国だけで世界の65%を占めている。

【『ブリタニカ国際年鑑』2009年版「国際連合」の項目】

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