2010年1月10日
2009年の国連の動き
2010年は「国際生物多様年」と「諸文化和解のために国際年」
前者は、生物の多様性が失われていることを懸念するとともに、2010年までに生物多様性消失の速度を減速させるための国際的努力の強化に向けて世論喚起を呼びかけているもので、同年10月、名古屋で開催されるCOP10の重要性が高まっている。
後者は、諸文化間の相互理解と宗教間の対話、寛容、理解と協力を促進するため、社会のあらゆる分野とレベルにおいて取り組むよう呼びかけている。年間テーマとしての指定は2001年に続いて二度目。
いずれも国連総会決議で制定が決まったもので、さらに2010年を「国際ユース(青年)年」とすることも決議された。これも1985年に続いて二度目。
第64回総会は温暖化対策の首脳級会合でスタート
第64回総会は9月15日に開幕、リビアのアリ・トレキ前リビア外相が議長に就任、主要テーマとして気候変動と軍縮・核不拡散の重要性を指摘した。まず一連の首脳外交がスタート、気候変動に関するハイレベル会合では、鳩山由紀夫首相が「主要諸国間の合意を前提として2020年までに日本のCO2削減目標を1990年比で25%とする」と表明し、各国から歓迎された。
ただし、12月、コペンハーゲンで開催されたCOP15(第15回気候変動条約締約国会議)では、先進国と新興国の対立のために国際的合意は成立せず、各国が自主的努力を継続するというあいまいな妥協で合意は先送りされた。各国は個々の削減目標を2010年1月末までに設定し、表明することになった。
次いで開催された安保理首脳会合(サミット)では、オバマ米大統領が議長を務め、核テロの危険性と核不拡散の重要性を強調した。鳩山首相は、?核保有国の核軍縮 ?CTBT(包括的核実験禁止条約)の早期発効とカットオフ(軍事用核物質生産禁止)条約締結 ?IAEA(国際原子力機関)支援 ?北朝鮮・イランなど核拡散の動きへの対応 ?核テロ対策(核安全保障)強化の5項目を優先課題として挙げ、唯一の被爆国として核廃絶に向けて先頭に立つ決意を表明した。安保理サミットでは、「核兵器のない世界をめざす」とする決議案が全会一致で採択された。
米、初めて日本の核廃絶決議案の共同提案国に
総会本会議は12月、日本提案の「核兵器の完全廃棄に向けた新たな決意」と題する決議案を例年通り圧倒的多数で採択した。賛成171、反対2(北朝鮮とインド)、棄権8(中国、フランス、パキスタン、イスラエル、イラン、ミャンマー、キューバ、ブータン)だったが、特記すべきは米国が9年ぶりに賛成に回り、しかも初めて共同提案国に加わったことだった。
米国はクリントン政権時の2000年に賛成したものの、ブッシュ前政権の8年間(2001−08年)は一貫して反対票を投じていた。今回は共同提案国も過去16年間で最多の87カ国に達した。これも“オバマ効果”だが、決議の文言は前年の内容を踏襲、核保有国の核軍縮義務の履行要求などでは生ぬるく、核廃絶に向けた具体策は乏しい。
核軍縮分野では、日本案のほかに、例年通り、NAC(新アジェンダ連合)とマレーシア提出の決議案も採択されたが、前者は「核兵器のない世界に向けて核軍縮に関する誓約の履行を加速する」と題して、核保有国に対し最もきびしい要求を突き付け、後者は「核兵器使用の非合法性」に関するICJ(国際司法裁判所)の勧告的意見のフォローアップを求めたもの。日本は前者には賛成したが、後者には反対した。米国は双方に反対票を投じた。
安保理改革進まず
安保理改革論議は全く進展しなかった。総会では、準常任理事国の創設、拒否権の是非などについて論議されたが、前者では日本はあくまでも常任理事国入りをめざす立場を変えず、後者では既存の常任理事国が拒否権放棄の意思がなく、論議は平行線をたどり、各国の思惑が対立したまま先送りされた。
なお、新しい非常任理事国には、ボスニア・ヘルツェゴビナ、レバノン、ナイジェリア、ガボン、ブラジルの5カ国が選出された。ブラジルは10回目、日本(2009年以来、非常任理事国)と並んで最多となった。ボスニアは初めての選出。
国連分担金改定、日本12%台に減額
総会は12月、2010年から向こう3年間の加盟国の分担金比率の改定を決めた。dd日本の比率は前年までの16.624%から12.53%に低減、いぜんとして米国(22%)に次いで2位ながら、過去最大の下げ幅(4ポイント以上)を記録した。
分担金比率は、加盟国のGNI(国民総所得)などを基礎に、各国の支払能力に応じて算定される。日本はピーク時の2000年には20%を超え、米国に肉薄していたが、その後の経済の低成長、長引く不況、財政事情悪化で低減し、安保理常任理入りを目指しながら今後の発言力低下が懸念されている。
主要国では英仏独は微減ながらほぼ現状維持なのに対し、中国、ブラジル、ロシアが上昇、それぞれ3.189%、1.611%、1.602%、となった。国連の2010−11年の通常予算は51億5600万ドル。
天野之弥氏、IAEA(国際原子力機関)事務局長に
日本の願望がかなって、天野之弥大使がエルバラダイ氏の後任としてIAEA事務局長に選出され、12月、就任した。任期は4年間。IAEA理事会における累計5回の決選投票の末に辛勝だったが、日本としては40年来の悲願達成だった。
入れ替わりに、ユネスコ(国連教育科学文化機関)事務局長の松浦晃一郎氏が11月末で2期10年間の任期を終えて退任した。松浦氏の後任にはブルガリアのイリーナ・ボゴバ・ユネスコ大使が選任された。
国連の6主要機関(総会、安保理、経社理、信託統治理事会、国際司法裁判所、事務局)の一つである国際司法裁判所所長に、2月、小和田恒氏が選出された。小和田氏は外務次官、国連大使を歴任、2003年以来、同所裁判官を務めてきた。
他方、日本の宇宙飛行士、土井隆雄氏が国連事務局宇宙部宇宙応用課長に就任、9月ウィーンに着任した。任務は、通信・気象観測技術への人工衛星の活用、途上国における宇宙教育の普及など。土井氏は1997年、米スペースシャトルで初飛行した際、日本人として初めて船外活動に従事した。
潘基文事務総長に批判高まる
ノルウェー国連次席大使が潘事務総長を「無力」「傍観者」と批判する報告を本国に送っていたことが8月に暴露され、論議を呼んだ。ミャンマー軍事政権との対話とスリランカ内戦収拾の失敗、国際金融危機対策でも無力ぶりが批判されたもので、かねてから国連外交界でくすぶっていた不満が噴出したもの。非白人トップに対する欧米諸国の批判はこれが初めてではない。事務局における韓国人幹部職員急増に対する批判も絶えない。
米、国連人権理事国に当選
5月の国連人権理事会における理事国改選で、米国が2006年の発足以来、初めて理事国に選出された。ブッシュ前政権は「人権侵害国が理事国になっている」として参加を拒否していたが、オバマ政権の国連重視政策で参加が決まり、同理事会は普遍性を達成した。日本は発足以来の理事国。
北朝鮮、ミャンマーの人権侵害に強い懸念表明
総会本会議は人権分野の決議案56本を採択したが、その中には、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)における深刻な人権侵害に懸念を表明する日本、EU(欧州連合)提出の共同決議案が含まれている。本会議における表決は、賛成96、反対19、棄権66だったが、政権交替した韓国が賛成に回っただけでなく、米国とともに共同提案国に加わった点が目新しい。
決議は、拷問、公開処刑、強制収容所の存在、外国人拉致などに言及し、早急な解決、真相究明を促している。北朝鮮をめぐる同趣旨の決議案が採択されたのはこれで5年連続。
ミャンマーにおける人権侵害を懸念し、アウンサン・スーチーさんを含む政治犯解放を求める決議案も賛成多数で採択された。
スーダン大統領に逮捕状
過去5年間に30万人が死亡したとされるスーダン西部のダルフール地方の民族紛争をめぐって、ハーグ(オランダ)のICC(国際刑事裁判所)は、3月、スーダンのオマル・アル・バシール大統領を戦争犯罪と人道に対する罪で訴追することを決め、逮捕状を発行した。
ICCは、2002年、国家指導者ら個人の犯罪を裁くために設立された国連の常設機関だが、現職の国家元首に対する逮捕状発行は設立以来初めて。
モレノオカンポICC主任検察官は、2008年7月、同大統領指揮下のスーダン政府軍とアラブ系民兵組織が3万5000の市民を殺害したと指弾し、集団殺害、戦争犯罪、人道に対する罪を犯したとして、逮捕状請求に踏み切った。スーダンはICCに加盟していないが、安保理は2005年3月、本件のICC付託を決議しており、スーダン政府としては国連加盟国として協力する義務を負う。
しかしスーダンにはUNAMID(国連ダルフール合同部隊)とUNAMIS(国連スーダン派遣団)とう2つのPKO(平和維持活動)が展開しており、スーダン政府の協力が不可欠という矛盾を抱えている。このためバシール大統領逮捕は実現していない。国際社会が求める正義と現存する武力紛争の解決を同時に求めることの難しさを物語っている。ICCの逮捕状発行は大統領に対する心理的圧力を狙った側面もあるが、その後ダルフール情勢は好転していない。
世界の飢餓人口10億人突破
FAO(国連食糧農業機関)は、6月、栄養不足の状態にある飢餓人口が前年より1億500万人増え、09年中に10億2000万人に達するとする報告書を発表した。世界的経済危機と食糧価格上昇のあおりを受けた結果で、過去最悪の数字となった。
FAOによると、途上国に対する投資は前年比32%減少、ODA(先進国の政府開発援助)も25%減少の見込みなのに対し、食糧価格は06年比でまた24%も高いという。地域別では、アジア太平洋地域が6億4200万人で最も多い。