2006年2月24日
国連事務総長に日本人を!
日本の安保理常任理事国入りの可能性が遠のいた現在、次期国連事務総長候補に日本人を推挙したい。
コフィー・アナン事務総長の任期は今年一杯で切れ、ことしは国連事務総長改選の年。事務総長は初代のトリグブ・リー氏(ノルウェー)から数えて、アフリカ出身のアナン氏(ガーナ)が7代目。地域ごとに輪番制で選出されるのが不文律になってきた。その上、冷戦期には中立国からという原則があったが、今は問題にならない。
アジア地域からは3代目のウタント(ビルマ)以外に出ていないので、順当にいけば次はアジアからの番で、スラキアット副首相(タイ)、ダナパラ前国連事務次長(スリランカ)、潘基文外交通商相(韓国)が名乗りをあげているが、本命不在で乱戦模様だ。
そこに波紋を投げたのがボルトン米国連大使で、「事務総長は地域に関係なく、国連改革に意欲的な人物本位で選ぶべきだ。あえて輪番制にこだわるなら東欧からは誰も出ていない」と横槍を入れた。ポーランドが米国主導の「有志連合」に参加してイラクに派兵したことへの「論功行賞」として、ボルトン大使の意中の人物はポーランドのクワシニエフスキー前大統領とされている。
アナン事務総長は、国連事務局内の腐敗と非能率を米国に批判され、さらに子息がフセイン政権下のイラク支援プログラムに関与して不当な利益を得ていたという疑惑も絡んで権威失墜し、昨今はレームダック化しているが、憲章99条で「国際平和と安全の維持に脅威となる事柄について安保理の注意を喚起することが出来る」ととくに規定されており、本来その言動の影響力ははかり知れないものがある。6番目の常任理事国代表という評されることもある。
ことし国連加盟50周年を迎える日本は、ほぼ一貫して「国連中心主義」を唱え、多国間外交の基軸として重視してきた。安保理常任理入りは外務省の35年来の悲願だが、昨年の国連創設60周年を期して、ドイツ、インド、ブラジルとともに提出したG4枠組み決議案は米中などの反対で不発に終わり、その後、米国との協調を重視した修正案も支持が盛り上がっておらず、安保理改革は当面、実現しそうにない。
この際、発想を転換して事務総長のポスト獲得は狙ってはどうか。事務局幹部としては明石康氏以来6名の事務次長を送り込み、現在、ユネスコ(国連教育科学文化機関)とITU(国際電気通信連合)のトップの座を日本人が占めているが、分担金比率が米国に次ぐ第2位、PKO(平和維持活動)への貢献、ODA(政府開発援助)も総額で世界第2位という実績からすれば、事務総長を狙ってもおかしくない。米国は、世界銀行とユニセフ(国連児童基金)のトップの座は創立以来手放さず、最近までUNDP(国連開発計画)総裁ポストも独占してきた。現在はWFP(世界食糧計画)とUPU(万国郵便連合)のトップも米国人だ。
ボルトン大使の横槍には中ロが反発しており、次期事務総長選は混戦になり、秋以降にずれ込み、ダークホースが漁夫の利を占める可能性がある。過去にも、第5代のデクエヤル氏(ペルー)も現職のアナン氏も最後に担ぎ出されたダークホースだった。日本も候補を準備して今から根回しをしても遅くはない。
国際機関のトップは閣僚級の人物が望ましいとされている。日本の閣僚は従来、英語が喋れず、国際社会に顔の売れていない"内向き"の政治家が大半だった。麻生外相、竹中総務相、小池環境相、猪口少子化問題担当相ら、小泉内閣には有資格者が多いが、過去の閣僚経験者、準閣僚級の副大臣を含めれば海外留学組が目白押しだ。ポスト小泉の座を狙うより、国連事務総長を夢見る政治家が日本からも、そろそろ出て欲しいものだ。
【『朝日新聞』2006年2月24日付「私の視点」】