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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

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  • 入会申込書
  • 代表・役員
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国連改革
TOP > 国連改革 > 結局実現しない日本の安保理常任理入り

2005年8月14日

結局実現しない日本の安保理常任理入り

 日本の国連安保理常任理事国入りが夢と消えた。創設60周年の国連改革も失速した。想定外の誤算続きとはいえ、日本外交の甘さを露呈した。

 ニューヨークの国連本部では、G4(日本、ドイツ、ブラジル、インド)が安保理常任理入りを目指して総会に提出した「枠組み決議案」を「ニッポンの“玉砕”決議案」と呼んでいる。

 否決を承知で決議案を玉砕覚悟であえて提出し、日本の安保理常任理事国入りの奇跡的実現に一縷の望みを託す構えだからだ。しかし、今やその構えも尻すぼみ、決議案そのものも棚ざらしになっている。

 最初の目論見では、AU(アフリカ連合)加盟53カ国のまとまった支持を取りつけて、G4とアフリカ2カ国を加えて6カ国を新規常任理事国として認めさせ、これに非常任理事国を4カ国増やし、現在の15カ国を25カ国に拡大するという「枠組み決議案」が7月中に総会で表決され、必要な3分の2の多数を得て採択される段取りになっていた。

 そうすれば、そのあと余勢を駆って憲章改正決議案も通り、各国の国内手続きの批准もスムーズに進むというのが日本主導のG4の春先の目論見だった。ところが、そのあとが誤算続きとなった。

 第一の誤算は、中国で燎原の火のごとく広がった日本の常任理入り阻止の「反日」デモ、それに続く中国政府による「反日」外交キャンペーンだった。中国の猛烈な「日本追い落とし」攻勢にさらされたAU諸国は苦しまぎれに独自の決議案を提出して双方の顔を立てようとしたのだが、G4諸国は両決議案の一本化に活路を見出そうとした。しかし、これもうまく行かず、大票田であるアフリカ諸国の一致した支持は「取らぬタヌキの皮算用」となった。

 第二の誤算は、ブッシュ政権の安保理改革反対だ。日米同盟関係から米国は日本の常任理入りを過去30年間、言葉の上では一貫して支持してはいるが、効率性低下を理由にホンネでは安保理拡大に反対で、新規の常任理は日本と途上国1カ国に限り、非常任理事国を加えても20カ国止まりという単独決議案を、途上国が圧倒的多数を占める総会で通らないのを承知の上でまとめ上げた。

 新常任理事国として日本を名指しで推挙していることから、町村外相は「米国がクセ球を投げてきた」などと半ば歓迎の意向を表明していたが、とんでもない、これはG4決議案つぶし以外の何ものでもなかったのだ。そこへ、途上国支配の国連を非能率、非効率の典型として批判して続けてきたボルトン前国務次官が新国連大使として乗り込んできた。彼は既存の常任理事国の特権保持の妙味が薄れる安保理改革反対の急先鋒だ。

 このほか総会には、G4に対抗して、常任理事国拡大に反対するコンセンサス・グループの決議案も提出されている。韓国、イタリア、パキスタン、メキシコ、アルゼンチンなどのライバル諸国がG4の常任理入り阻止のためにまとめた決議案だ。途上国の票は完全に二分されるだろう。

 以上三つの誤算で、日本外交の35年来の悲願である安保理常任理入りは夢まぼろしと消えてしまった。

 いま国連総会は夏休み。ピン総会議長(ガボン外相)もバカンスの最中で開店休業だが、8月22日以降に再開される総会でG4の「枠組み決議案」が3分の2の多数を獲得する可能性は限りなくゼロに近い。

 たとえ獲得しても、常任理事国5カ国を含む3分の2が国内で批准しないと憲章改正は発効しない。外務省は、安保理の非常任理事国のみを4カ国増やした1965年の改正では、総会の表決で反対した米中両国も批准段階で賛成した前例を挙げて強気の構えを崩していないが、今回は米国が安保理改革に大反対。米議会もG4案を批准する見込みはない。他方、中国は日本の常任理入りそのものに絶対反対で、両国とも猛烈なキャンペーンをしており、外務省もホンネではすでに諦めている。あと10年チャンスはめぐってこないだろう。

 しからば、これからどうすべきか。

 一番すっきりするのは、そんな「旧国連」から脱退して、もともと反国連色の強い米国のネオコンをけしかけて「新国連」を結成することだ。米国はユネスコ(国連教育科学文化機関)から20年間脱退し、外部から圧力をかけて路線の変更を促したが、残念ながら日本にはそんな勇気も実行力もない。

 日本の国連分担金は19.5%で年額3億5000万ドル。これだけで米国を除く既存の常任理事国4カ国(英、仏、中、ロ)を合わせた分より多い。日本国内には常任理事国入り慎重論が今も根強く存在するが、カネだけ支払って決定はお任せというのは何よりも無責任だ。

 現在、日本は非常任理事国だが、任期2年で再選不可。最低2年は休まないといけない。とりあえず拒否権はなくても、せめて再任可能の非常任理事国入りという中間的妥協案を模索すべきだ。

 アナン事務総長は、強力な権限をもつ「人権理事会」の新設、武力紛争解決後の「平和構築委員会」の創設などを提案している。国連改革とは安保理改革ばかりではなく、日本の常任理事国入りだけではない。トータルな国連改革に関心をもち、国内論議を深める必要がある。

【『世界日報』2005年8月14日付「サンデービューポイント」】  

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