2004年12月14日
国連改革は「日本の常任理入り」に非ず
日本人は国際問題を自国あるいは自分との関連でのみ考える傾向がある。その典型が国連改革だ。国連改革といえば安保理改革、それも日本の常任理入りしか念頭になく、軍事的義務を負うのかどうかばかりを気にかけている。国連の全体像をとらえて、どこをどう変えるかにもっと関心を払うべきだ.。
アナン事務総長のハイレベル諮問委員会が国連改革案をまとめて、このほど公表した。100項目以上の包括的提言だが、ほとんどのメディアが安保理拡大案しか伝えなかった。安保理拡大では「拒否権なしの常任理事国6カ国と非常任理事国3カ国」あるいは「任期4年で再選可能の準常任理事国8カ国と非常任理事国1カ国」という両案を併記し、2005年の国連創設60周年記念総会に決定を委ねた。
新常任理事国としてアジア・太平洋地域から2カ国、米州(北・中南米)と欧州から各1カ国のほか、加盟国数に比例してアフリカに2カ国を割り当てている点で7年前の「ラザリ案」よりも一歩踏み出している。「拒否権なし」でも常任理事国を目指す日本はインド、ブラジル、ドイツとともに名乗りをあげ、拡大実現のための憲章改正に必要な総会議席の3分の2確保に向けて、積極的に集票工作に乗り出している。
前回の総会討議では、インドに対してパキスタン、ブラジルに対してメキシコとアルゼンチン、ドイツに対してイタリアがそれぞれライバル国として立ちはだかり、「ラザリ案」をお蔵入りにしてしまった。今回もその可能性がある。総会の3分の2以上の賛成票確保は難関だ。
さらに憲章改正の発効には既存の安保理常任理5カ国が憲章改正案を国内で批准する必要がある。現状では中国が日本の常任理入りをすんなり認めるか、NPT(核不拡散条約)体制重視のブッシュ政権が非加盟を貫いている核保有国インドを受け入れるかなど不確定要素が残る。 国連加盟国191カ国の3分の2以上、つまり128カ国が憲章改正案を批准するには数年かかる。ロシアの批准で発効間近の地球温暖化防止の京都議定書も署名以来7年以上の歳月を要している。
他にも重要な提言が数多く盛り込まれているが、日本の新聞はほとんど伝えていないので、この機会にご紹介する。
核保有国に対しては、NPT第6条の核軍縮推進の義務履行を迫り、同時にNPT非加盟国にはCTBT(包括的核実験禁止条約)批准、カットオフ(兵器用核分裂物質生産禁止条約)締結交渉支持を通して核不拡散への誓約をあらたにするよう求めている。
他方、包括的テロ禁止条約締結を総会に求めるとともに武力行使のルール確立を訴え、ジェノサイド(大量虐殺)、民族浄化、人道危機を国家が放置したり、適切に対処できない場合は、国境を超えた「人道的介入」を是認している。しかし武力行使に際しては、脅威が明白で深刻かつ差し迫ったものであること、成功の見込みがあることなどを事前に検討し、必要最小限にとどめること、などを提起している。「脅威が差し迫っていない」場合の先制予防攻撃には反対している。イラク戦争の教訓だ。
憲章上の「国連軍」には見切りをつけ、その活動に指示を与える「軍事参謀委員会」の削除を提案するかたわら、PKO(平和維持活動)の展開を迅速にするため事務局と事前に取り決めを結ぶこと、50−100人規模の「国連警察部隊」の常設を提案している点が目新しい。
このほか、平和・安全保障担当の副事務総長をあらたに任命すること、安保理に平和構築委員会を設けること、経済社会理事会の活性化のためにテロや国境を超えた組織犯罪と取り組む委員会を設けること、世界銀行、IMF(国際通貨基金)などとの協議を密にし、「開発協力フォーラム」を定期的に開催して活動を調整することなどを幅広く提案している。いずれも国連の強化、効率化に有益である。
【『電気新聞』2004年12月14日付「時評ウェーブ」欄】