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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

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国連改革
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2004年10月31日

安保理常任理入りをめぐる日本人の錯覚

 日本は来年から2年間、アジア地域代表として国連安保理の非常任理事国を務める。国連加盟以来9回目、ブラジルと並んで最多回数を誇る。「誇る」というより、その分だけアジアの中小国が非常任理事国になるチャンスを奪っていることになる。その意味でも日本は常任理事国になった方がよい。

 小泉首相は今年の国連総会で日本の常任理入りに向けて正式に名乗りを挙げた。小泉氏は、憲法9条堅持を主張、常任理事国になると軍事的な貢献を義務づけられるという理由で、かねてからこの問題に消極的姿勢だったことからすれば大きく軌道修正した。常任理入りしても憲章上、軍事的義務を負うことにはならないという外務省当局の説明に納得したようだ。それはそれで正しい。

 国連憲章には常任理事国(P5)の資格に関する明文規定はないし、既存のP5(米、ロ、英、仏、中)が常に軍事的義務を果たしているわけではない。常任理入りを悲願とする日本政府に対しては、パウエル国務長官、アーミテージ副長官らブッシュ政権首脳から、憲法改正に絡めてしきりに外圧がかかってきているが、両者は切り離して考えるべきだ。憲法9条堅持の常任理事国で一向に差し支えない。

 それよりも国連職員として、10年間を事務局で過ごした筆者にとって不可解なのは、日本国民のなかに「常任理事国になるべきではない」という消極論が根強く存在していることだ。自国の常任理入りに反対する国民が存在している国は世界に日本しかない。

 消極論の根拠としての「常任理入りは軍事大国化につながる」という旧左翼勢力の主張は国連に対する無知と誤解にもとづくものだが、「常任理入りして何をするのか」を問いかける論調が目立つのも日本特有の特異な現象である。「理念を明示すべし」と説く野党幹部もいる。

 これも国連に対する無知と誤解のなせる業だ。日本人は国連に対する期待と評価が大きすぎるのだと思う。国連は世界平和の殿堂という先入観が抜けず、安保理という殿堂入りする以上、いつも模範解答を用意していなければならないとの錯覚にとらわれているのではないか。

 既存の5カ国が国連創設時にいちいち理念を打ち出して常任理事国になったわけではない。単に第二次世界大戦の戦勝国だったというにすぎない。現在、日本とともに常任理入りに意欲を燃やしているドイツ、インド、ブラジルなども常任理事国になったら何をするかについて理念を掲げているわけではない。ドイツにすれば英仏両国がP5の一員である以上当然と思っているだけだし、インドも中国に対抗して「わが国も」と考えているにすぎない。

 日本人は国連を美化しすぎている。国連は国益追求のために存在するもので、総会も安保理も、各国の利害調整と意思集約の場にすぎない。国連は会議の場を提供しているにすぎない。国益追求のためにはまず発言の場を確保しなければならない。常任理事国になるということは発言の場を常時確保することなのだ。国連分担金比率が米国に次いで第二位だということは発言の場の確保のための基本的条件を備えていることを意味する。

 その点では日本政府の説明も情けない。外務省は「常任理事国になると情報が入るから」と吹聴して回っているが、笑止千万だ。湾岸戦争時に、米国が安保理を最大限に活用して決議案を次々に提出、連日協議を重ねていたにもかかわらず、日本はカヤの外におかれ、波多野敬雄国連大使みずから廊下トンビをして情報を集めたという苦い経験から来るものだが、「それゆえに常任理事国になりたい」というのでは他国から軽蔑されるばかりではないか。

 もう一度くりかえす。常任理事国になるのは発言の場の確保のためで、それは国益追求のために他ならない。何か国益か。経済的権益、国防と安全保障、国民の精神的充足感・・・さまざまであろう。何を優先させるかはその場の政府の政策判断によろう。それでいいのだ。

 いずれにせよ、今年12月にはアナン事務総長の委嘱で発足したハイレベル諮問委員会が安保理改革案を提出、来年の国連創設60周年を機に、改革の動きが本格化する。この動きをしっかりと見守ろう。

 次に、国連改革といえば安保理改革、安保理改革といえば日本の常任理入りという日本国民の受け止め方は自己中心的すぎて間違っている。

 国連には、安保理のほかに、総会、経済社会理事会(経社理)、信託統治理事会など6つの主要機関があり、中でも、人口、開発、人権、環境などを扱っている経済社会理事会の重要性は安保理に劣らない。国連の総予算と要員の4分の3以上がこの分野の活動に振り向けられていることからもその重要性はうかがえる。ところが討議が総会とほとんど重複し、先進国と途上国の利害の対立で形骸化し、無力化している。経社理をどう改革すべきか、これも緊急課題だ。

 信託統治理事会は、パラオを最後にすべての信託統治領の独立達成で、過去10年以上全く活動していない。これに代わる「地球環境理事会」の新設案が出ている。いずれにせよ還暦を迎える国連は思い切った若返りを迫られている。

【『世界日報』2004年10月31日付】

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