2008年8月28日
グルジア紛争は「新冷戦」ではない/矛盾する国際法の2原則
グルジアに対するロシアの武力行使と侵略、南オセチアとアブハジアの独立承認には、米欧諸国が一斉に非難しているが、米欧だけに理があるわけではない。コソヴォがセルビアから独立宣言した時には米欧は、ロシアの反対を押し切って、こそって支持した。全く矛盾した対応をしている。
国際法上守るべき大原則が2つある。1つは「主権国家の領土保全・内政不干渉」、もう1つは「民族自決権の承認」だ。この原則は国連憲章にも明記されているが、相互に矛盾する。
グルジアの場合は、ロシアが後者(つまりロシア寄りの少数民族の「民族自決権」行使)を支援する形で、前者を無視したわけだ。他方、コソヴォの場合は、米欧諸国がセルビアの意向を無視して、「セルビアにおけるアルバニア系の民族自決権」を支持したのだ。だから、一概にロシアを非難し、国際法違反と断罪すべきでない。双方に大義がある。
いずれの場合も、大国が国益を前面に掲げて行動している点に変わりない。ロシアとしてはNATO(北大西洋条約機構)の東欧ならびに旧ソ連圏進出に脅威を抱き、この流れを断ち切ることに主眼があった。グルジアが米国に急接近し、NATO加盟を望んでいたからだ。米欧側としては、ロシアの復権、軍事大国化を阻止したいところだ。
米欧のメディアは、「冷戦再発も辞さず」というメドヴェージェフ大統領の言葉を引用して、「新冷戦勃発」と伝えているものがあり、日本のメディアも早速飛びついて見出しに掲げている新聞もある。しかし事実は「新冷戦」からはほど遠い。
現在のロシアは資源大国ではあるが、GDP(国民総生産)も、国防支出も、米国の15分の1程度にすぎず、とうてい米国に太刀打ちできる国力はない。しかもロシアは米欧諸国と価値観を共有するG7(主要先進国)の仲間であり、もはやイデオロギーの対立は存在しない。
「新冷戦」ではなく、むしろ資源確保・収奪をめぐる「新グレートゲーム」と呼ぶべきだ。グルジアは、ロシアを素通りして天然ガス・パイプラインをカスピ海沿岸地域から欧州諸国に通す上での戦略的・地政学的に重要な位置を占めている。メドヴェージェフ=プーチン体制のロシアとしては、資源大国の地位保持のために、グルジアを自らの勢力圏に押しとどめ、米欧諸国を牽制しようとしているのだ。