2008年10月12日
遅きに失した米の対北「テロ支援国家」指定解除/「日本は蚊帳の外」はウソ
米国による北朝鮮「テロ支援国家」指定解除は当然の成り行きで、本来はブッシュ大統領が議会に通告してから45日後の8月11日に発効し、発表される筈だったのが、「申告」対象の核施設に対する「検証」をめぐって米朝が対立、2カ月おくれになったものだ。解除発効が遅れた原因は米側にある。
「検証」は合意文書に事前に明記されておらず、米側がいきなりIAEA(国際原子力機関)が実施しているような国際基準の「査察」を要求してきたところから対立が生じた。「査察」は相手国の同意を前提に行なわれており、北が同意しない施設に対する「検証」拒否を貫いたのは当然である。
合意文書(2005年9月19日の6者協議「共同声明」)には「検証可能な朝鮮半島の非核化」と記されており、非核化の対象も「朝鮮半島全域」を指している。北朝鮮の核廃棄だけではないのだ。同時に「何が検証可能か」は双方が協議して決めるべきなのだ。それが2カ月かかり、今回ようやく合意したということだ。
日本の新聞・テレビは、「米国が北の”脅し”に屈した」とか、「北の”ゆさぶり”に譲歩した」とかの解説を伝えているが、いずれも北朝鮮不信と敵視感情に流され、世論に迎合する情緒的報道であり、客観的とはいえない。
「蚊帳の外、日本に衝撃」という朝日新聞(10月12日2面)の見出しと解説も不適当だ。日本は決して「蚊帳の外」だったわけではない。斉木アジア大洋州局長ら外務省当局者はクリストファー・ヒル国務次官補、ソン・キム担当大使らから詳細な報告を事前に受け、説明を聞いている。
10日夜(日本時間)の米首脳からの電話で、麻生首相も中曽根外相も、「週末には動きがないだろう」と推測したのが甘かったのだ。ブッシュ政権によるテロ支援国家指定解除が時間の問題であることは当然予想されたことだったのだ。
ブッシュ大統領が、2カ月遅れとはいえ、この時期に指定解除を決定したのは、今月初めヒル次官補が訪朝して金正日総書記の健康状態を直接確かめ、総書記が執務に支障なく、体制存続に問題がないと判断したからだ。重病説を面白がって取り上げる日本のメディアは不謹慎だ。
そもそも「テロ支援国家指定」と「日本人拉致」は無関係だ。日本政府が世論の圧力で強引に「指定」の根拠に追加させ、ブッシュ政権も対日配慮で、お義理に言及しているにすぎない。だからブッシュ大統領も「拉致のことは忘れていない」と述べるにとどまっている。
米国が拉致問題未解決を理由に「テロ支援国家」指定解除の発効を延ばせば、北朝鮮の核廃棄が実現しないどころか、北朝鮮はミサイル発射と核実験をくりかえし、朝鮮半島の緊張を高まるばかりだ。拉致問題は日朝間で解決する以外にない。解決とは、日朝国交正常化を前提にした”政治決着”しかあり得ない。