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プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

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主張・提言・コメント
TOP > 主張・提言・コメント > 「核廃絶」はまだ“夢の夢”――オバマに幻惑された国際世論

2009年12月22日

「核廃絶」はまだ“夢の夢”――オバマに幻惑された国際世論

昨年4月のプラハ演説で、オバマ米大統領が「核兵器のない世界」実現を唱えて以来、世界に核廃絶に向けての国際世論が高まり、オバマはそれだけでノーベル平和賞を受賞したが、まさに「希望」の上滑り現象だ。現実を知りつくすオバマは、オスロでの受賞記念演説でアフガニスタン派兵を正当化する「正義の戦争」論を開陳したが、きわめて不評だった。しかしプラハ演説に狂喜した市民はオバマの雄弁術に惑わされたのだ。

 

オバマは核廃絶を理想として掲げはしたが、同時にきちんと逃げを打ち、次のように述べている。「私の生きている間に核廃絶は実現しないだろう」「世界に核兵器が存在する限り、米国から先に核兵器を廃棄することはない」「同盟国に対する核の傘(拡大抑止)の約束は守る」・・・・。何のことはない、彼は国際世論誘導の言葉の魔術師だったにすぎない。世界はオバマにだまされたのだ。それにしてもプラハ演説を手放しで歓迎した日本の世論は浅薄だった。

 

核廃絶に至る道筋は核保有国の核削減(核軍縮)と非保有国への不拡散の2通りがあるが、双方とも前途多難だ。米ロは昨年末に失効したSTART−1(戦略兵器削減条約)に代わる後継条約署名でまだもたついている。新条約署名にこぎつけても、核弾頭は最低限1500発残ることになる。新条約の期限は7年だが、7年後に削減目標が実現している保証はない。英仏中の残りの公認核保有国を交えての多国間軍縮交渉に舞台が移るには、米ロ間の核削減がさらにもう1段階進まねばならず、それには今から数えて最低10年から15年以上かかる。

 

もっと困難なのは、核不拡散だ。現行のNPT(核不拡散条約)非公認に核保有国が、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮、さらに潜在的に核保有をめざすイランを加えると5カ国にのぼる。このうち北朝鮮を除く4カ国廃棄に応じる可能性は限りなくゼロに近い。北朝鮮もきびしい条件闘争が待ち構えている。

 

イスラエルの核廃棄は中東紛争が解決しない限り、実現しない。インドも中国の動向次第だ。インドが廃棄しない限り、パキスタンも応じない。金正日体制が続く限り、北朝鮮も絶対に核廃棄には応じないという悲観論もある。

 

核開発の動機には、?実戦用武器 ?安全保障(抑止力) ?国家のステータス・シンボル ?ナショナリズム(国威発揚) ?対米交渉のカード の5通りがあり、現実には複雑に絡み合っている。これらの要因が動機づけとして効力を失わない限り、指導者は核開発の衝動を抑えられない。しかも、原料のウランは地上に無尽蔵に近く存在する。技術者がノウハウさえ会得し、指導者がその気になれば、核保有は容易である。濃縮ウランとプルトニウムの備蓄も累計数百トンにのぼる。人類は「パンドラの箱」を開けてしまったのだ。

 

「核廃絶は世界政府が実現しない限り不可能」。これが日豪主導でこのほど報告書をまとめた国際賢人会議の現実的な結論でもある。世界政府の実現には2つの側面がある。人類が平和共存の知恵を身につけて上記の核開発・保有の衝動に駆られなくなること、違反者(国)に対する摘発と査察の実効性が高まり、世界政府が超国家的権限を有し、査察が有効に機能すること、の2点だ。そんな日がくるのは「百年河清を待つ」ことに等しいのではないだろうか。 

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