2011年1月14日
米朝の相互不信をどう克服するかーー米朝相互不信の構造
南北砲撃戦の背景
2009年11月23日、黄海沖韓国領延坪島に対する北朝鮮軍の砲撃は北東アジアの危機を一挙に高め、朝鮮半島の不安定な状況に対する世界の関心をにわかに集めた。
当時、韓国軍は黄海沖で軍事演習中で、北朝鮮側にも通告済みだったが、この海域は境界線が確定しておらず以前から両国の係争の対象で、これまでにも武力衝突が頻発していた。境界線は暫定的に「北方限界線」と呼ばれ、両軍はその都度、警戒を強めてきた。
南北は、1950年から3年間続いた朝鮮戦争のあと、休戦協定を結んで北緯38度線沿いに「軍事境界線」を確定した。軍事境界線の南北2キロを非武装地帯とすることで合意したが、接続海域の境界線は双方の主張が折り合わず、漁船の拿捕などが繰り返され、不安定な状況が続いてきた。
11月の海戦では1時間後に韓国軍も応戦し、2時間以上続いた砲撃戦は、民間人2名を含む4名の死者、20名の負傷者を出した。もとより、いきなり200発もの実弾を発砲して無辜の市民を殺傷するのは国際法違反であり、北朝鮮の行為は人道上非難に値するが、北朝鮮にすれば、境界線画定のための再三の交渉申し入れにもかかわらず、休戦協定締結後半世紀以上にわたって現状を放置し、恒久的平和協定締結に応じようとしない米韓側の「怠慢」(サボタージュ)に根本的な原因があるということになる。
米朝に横たわる相互不信
米韓側は朝鮮半島北半分を実効支配している「朝鮮民主主義人民共和国」を過去半世紀以上、国家として承認せず、国交を結ぼうとしていない。とくに米国の歴代政権は「金正日体制」をテロ国家、テロ支援国家と断定、外交上の接点も最小限にとどめてきた。ブッシュ前政権の末期に「テロ支援国家」の認定は解除・撤回したが、オバマ政権になっても、外交上の承認ならびに国交樹立の条件として、「先核放棄」(先に核兵器を放棄すること)を要求しており、クリントン国務長官も「北朝鮮が核放棄に応じ、朝鮮半島非核化」に乗り出せば、た外交的に承認し、国交を樹立する」と明言している。しかし相互不信が根強く、北朝鮮がこれに応じる気配はない。「先核放棄」すれば、物量で勝る米軍が間髪を入れず侵攻し、金正日体制を崩壊させるにちがいないと確信している。事実、ブッシュ前政権を支える共和党保守派の中心勢力ネオコンはレジーム・チェンジ(政権転覆)を唱えていた。
米朝の相互不信を埋め、信頼醸成に努めるには、不断の対話が不可欠だ。米朝にはそれが欠けている。日朝にも欠けている。相手の立場、主張を理解する意思がなければ対話は成立しない。
そうはいっても、金日成、金正日。金正恩と、権力の3代世襲を正当化しようという北朝鮮の体制がきわめて特異で、異常であることも事実だ。
「朝鮮半島非核化」は金日成の遺訓
それだけに「北朝鮮は絶対に核を放棄しない」という思い込みがワシントン、ソウル、東京の言論界に根強いが、これは多分に対北不信の感情論・情緒論だ。「朝鮮半島非核化」は本来、金日成主席の遺訓なのだ。遺訓は北朝鮮では絶対である。
ここでいう「朝鮮半島非核化」は、単に「北朝鮮の非核化」ではなく、「韓国の非核化」をも意味し、「在韓米軍の非核化」も不可欠で、そのために北朝鮮は「在韓米軍」の核査察という非現実な要求もしている。お互いに要求し出したらきりがないが、米朝関係が正常化すれば支障はない。
実は、南北双方は、その実現一歩手前まで行ったのだ。2005年9月19日の第4次6者協議共同声明の内容を再確認すればいいのだ。この共同声明の要点を列挙すれば次のとおりだ。
?「6者協議の目標は、検証可能な「朝鮮半島非核化」である。?北朝鮮は既存の核開発計画を放棄し、IAEA(国際原子力機関)の査察を受ける。?米国は朝鮮半島に核兵器を持ち込まず、朝鮮半島非核化を推進する。?南北は1992年の「南北非核化宣言」を履行する。?6者は北朝鮮の「原子力平和利用の権利」を尊重し、適当な時期に軽水炉供与について協議すること。?米朝は国交正常化実現の措置をとる。?日朝は「平壌共同宣言」にもとづいて国交正常化の措置をとる。?韓国は200万キロワット相当の電力を北に支援する。?日中韓ロシアはエネルギー支援をする。?6者は北東アジアにおける多国間安全保障について協議する。以上の10点は6者は以上の10点で合意し、北京ですでに一度署名しているのだ。要するに、これらを再確認し、履行すればいいのだ。
北朝鮮は、さきにシグリード・ヘッカー元ロスアラモス原子力研究所所長ら米国の学者を招いて、自力でウラン濃縮を実施、軽水炉建設に乗り出していることを公開した。その後、リチャードソン・ニューメキシコ州知事を招いて、ウラン濃縮施設を韓国に売却し、IAEA(国際原子力機関)の査察官入国を認めるとも言明している。駆け引きの要素はあるが、金正日総書記がこれに同意していることは疑いない。「共同声明」を再確認すれば、改めて自力開発するまでもないことは自明の理だ。