テーマ別

プロフィール

吉田 康彦

吉田 康彦

1936年東京生まれ
埼玉県立浦和高校卒
東京大学文学部卒
NHK記者となり、ジュネーヴ支局長、国際局報道部次長などを歴任

1982年国連職員に転じ、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーンに10年間勤務

1986−89年
IAEA (国際原子力機関)広報部長

1993−2001年
埼玉大学教授
(国際関係論担当)
2001-2006年
大阪経済法科大学教授
(平和学・現代アジア論担当)

現在、
同大学アジア太平洋研究センター客員教授

核・エネルギー問題情報センター常任理事
(『NERIC NEWS』 編集長)

NPO法人「放射線教育フォーラム」顧問

「21世紀政策構想フォーラム」共同代表
(『ポリシーフォーラム』編集長)

「北朝鮮人道支援の会」代表

「自主・平和・民主のための国民連合・東京」世話人

日朝国交正常化全国連絡会顧問

学歴・職歴

北朝鮮人道支援の会

  • 設立宣言
  • 活動実績
  • 入会申込書
  • 代表・役員
  • ニューズレター

リンク

主張・提言・コメント
TOP > 主張・提言・コメント > PKOは国連の花/南スーダンPKOに自衛隊参加を望む    

2011年7月24日

PKOは国連の花/南スーダンPKOに自衛隊参加を望む    

PKOは国連の花

国連発足以来66年を振り返って最も成功し、最も息の長い活動になっているのが、PKO(平和維持活動)だ。しかPKOは国連憲章には1行も書いてない。いわば“日陰者の存在”としてスタートしたのがPKOだ。

PKOの歴史は1956年のスエズ動乱にさかのぼる。スエズ動乱というのは、エジプトのナセル大統領が当時イギリスが支配していたスエズ運河を国有化したのに抗議して、英仏両国が出兵して軍事占領、中東に戦火が広がる勢いになったのに対し、戦火拡大の阻止と停戦の実現のみを目的として中立的性格の国連の、いわば“戦わぬ軍隊”を現地に派遣し、平和維持を目的としたのがPKOのはじまりだった。“戦争行為”を目的とするのが軍隊の性格だとする当時の常識からすればきわめて新鮮だった。

PKOなるものを思いつき、提唱し、実施に移したのが、ダグ・ハマーショルド事務総長(当時)と総会議長のレスター・ピアソンカナダ外相だった。冷戦構造下の米ソがともに賛成したのもラッキーだった。2人はのちにノーベル平和賞を受賞した。

国連憲章に記述がないのは、憲章改正という面倒な手続きを踏めば数年はかかり、緊急事態に間に合わないからだ。国連発足以来、安保理と経済社会理事会の構成国増大、公用語にアラビア語を加えたこと以外の改正条項はほとんど実現していない

 

PKOこそ平和憲法の理念

こうしてみると、PKOの性格と日本国憲法には共通点があり、平和憲法を後生大事におし戴く日本国民が飛びついてもよさそうなものだが、国連に対する無知と誤解から日本人は冷淡で、PKOに対しては長い間“拒否反応”を示していた。戦後の日本人にとって、たとえ自衛のためにせよ、銃を携行するという行為はタブーだったのだ。このため、ハマーショルド氏が再三日本政府を非公式に打診してPKOの真意を解き、自衛隊の参加を説いたが無駄だった。

筆者は国連広報官として10年間ニューヨークに勤務してPKOの活動を日本人記者団に解説したが、彼らの反戦アレルギーは極めて強く、真意が理解され、自衛隊のPKO参加が現実の課題として議論され出したのは、冷戦終結後のことだった。きっかけはカンボジア和平だった。日本人の明石康氏が担当事務次長としてUNTAC(カンボジア暫定統治機構)代表に任命されたのが弾みになった。

その後、過去20年間に、モザンビーク、ゴラン高原、東チモール、ハイチ、ネパールなど世界の主要紛争地点に自衛隊が派遣されるようになり、その後着実に実績をあげているが、日本は、停戦協定の成立、紛争当事者の派遣同意、紛争再発の際の一方的撤退、正当防衛など必要最小限の武器使用など、日本独自の「PKO参加5原則」に固執し、自らの活動範囲を狭めている。「任務達成のために必要な武器使用」など、国際基準に合致した武器使用制限の緩和と選択肢拡大が不可欠だ。

PKOが正式に発足して55年、これまで64件のPKOが編成され、現在も15件が世界各地に展開中、国連加盟国115カ国の軍隊、総勢10万人以上が参加しているが、日本は60番目以下で、影がうすい。国民の関心も低下している。

 

南スーダン独立こそ日本の「国際貢献」の好機

 おりしも7月9日にアフリカ大陸のスーダン南部が「南スーダン共和国」として独立した。日本の2倍の面積に人口826万、アフリカでは54番目の独立国。南部には豊富な油田が存在し、未開発ではあるが、資源大国だ。

 国連安保理はすでに8000人規模の南スーダンへのPKO派遣を決議しており、潘基文事務総長は日本に、人員輸送用のヘリコプター部隊の派遣を要請している。今後の総選挙実施の際の監視、円滑な運営など、用途は広い。

 世界のグローバル化は進み、相互依存の度合いは日夜、深まっている。さきの東日本大震災では、世界の123カ国が日本に支援の手を差し伸べてくれた。「ご恩返し」のチャンスだ。中国は早くも石油利権を狙って、大規模な貿易・投資の調査団を首都ジュバに派遣し、現地調査を開始している。米国も同様だ。スーダンの原油埋蔵量は推定600億バーレルに達するとされ、世界最大の潜在的宝庫が存在する。原油のほか、ウラン、金、ダイヤモンド、アルミニウム、クローム、銅などの鉱物資源も豊富だ。これらが長引く内戦でほとんど手つかずの状態なのだ。

 しかし日本は、なりふり構わぬ資源収奪競争には参加すべきではない。スーダン人民の真の利益は何かを考え、彼らの利益優先の行動を選択すべきだ。彼らに必要なことは内戦で荒廃した国土再建のための“国づくり”であり、手に職をもてるようにしてやる職業訓練だ。そのための学校教育からスタートせねばならない。前途多難だが、意義深い。これは決してきれいごとではない。スウェーデン、ノルウェーがPKO参加の基準としている原則だ。

 ヘリコプター輸送部隊派遣の潘事務総長からの要請には自衛隊内部に現地の治安を不安視する消極論もあるようだが、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」だ。危険ゼロの事業に成功はない。

新刊案内

最新刊
北朝鮮を見る、聞く、歩く

北朝鮮を見る、聞く、歩く
(平凡社新書500)
【定価800円+税】

「北朝鮮」再考のための60章

「北朝鮮」再考のための60章
(明石書店)
【定価2000円+税】

「北朝鮮核実験」に続くもの

「北朝鮮核実験」に続くもの
(第三書館)
【定価1200円+税】

国連改革

国連改革
(集英社新書)
【定価700円+税】

21世紀の平和学

編著 『21世紀の平和学
(明石書店)
【定価2400円+税】

現代アジア最新事情

編著 『現代アジア最新事情
(大阪経済法科大学出版部)
【定価2600円+税】

国連安保理と日本

訳著 『国連安保理と日本
(岩波書店)
【定価3000円+税】

動き出した朝鮮半島

共著 『動き出した朝鮮半島
(日本評論社)
【定価2200円+税】