2013年2月09日
「脱原発」を脱した安倍新政権の新エネルギー政策
昨年暮の総選挙における自民党の大勝に欣喜雀躍したのは“脱原発”旋風に吹きさらされ、“国賊”扱いされていた“原子力村”の学者と電力業界の幹部たちだった。
6年ぶりに政権に復帰した安倍晋三氏は原発維持を明言してはいないが、民主党前政権の脱原発政策を見直すことを約束、原発再稼働を示唆している。
野田政権下の民主党は、「2030年代に原発稼働ゼロ」の実現を目指して、曲がりなりにも「脱原発路線」を打ち出していたが、歴史的大敗でこの構想は頓挫した。選挙まで脱原発、卒原発のキャッチフレーズが躍り、反原発ムードが世論をリードしていたが、今はすっかり影をひそめている。
どの程度原発を維持するか未確定だが、現在、稼働中の原発は福井県大飯の2基だけ。しかし少なくとも四国の伊方原発はじめ数基の再稼働は不可避となろう。
ただし、7月までに現在より厳しい安全基準を設け、「新基準を満たさないものは再稼働を認めない」と新設の原子力規制委員会が明言している。とくに、その後の調査で活断層の真上に原発の敷地が設けられていがことが判明した敦賀原発は廃炉とならざるを得ないだろう。
東電福島第一原発の近くに住み、故郷を追われた16万の被災者は同情に値するし、ひとたび原発事故が起きると半減期の長い放射能を有する有害物質を含む核燃料に依存する原発とは最終的には絶縁するのが望ましい。
しかし、原発には他のエネルギー源とは比較にならない長所もある。まず単位当たりの発電量だ。ウラン1グラム当たりのエネルギー創出量は石油の10万倍に匹敵する。第二に、蒸気タービンによる発電プロセスは気象条件に全く左右されない。核燃料は有害物質を含んではいるが、密閉されているかぎり安全で、寿命も長い。唯一最大の欠点は放射性廃棄物を残すことだ。
ムード的な感情論でエネルギーを論じるのは正しくない。経済合理性としての「脱原発」は現時点では不可能だ。原発に代わる基盤エネルギーの柱を何に求めるか、その点が定まらないのだ。
太陽光、風力などの自然エネルギーのいずれも経済性と天候に左右されるための安定供給性に弱点があり、発電コストは原発の数倍というのが現状だ。
地熱も有力な自然エネルギーで、火山国の日本は資源に恵まれてはいるが、地熱の湧出地は国立公園・国定公園の所在地に多く、環境保護の観点から開発には限界がある。
「脱原発」を唱える人は年間4兆ドル以上の日本経済の現在の規模を維持するのに、どのエネルギー源なら可能かを考えてみるがよい。原発の代わりに石油火力で補うのは不可能ではないが、膨大な外貨流失を伴い、日本の経常収支が大赤字になる。何しろ昨年度だけで、原油と天然ガス輸入などのエネルギー源確保に日本は7兆円という膨大な外貨を費やしたのだ。
将来、シェール・オイル、メタンハイドレードなど海底に眠る天然ガス資源の開発が進めば、日本は世界有数の資源大国になる可能性を秘めているが、実用化・企業化にはまだ不透明な部分が多い。
とうわけで当面はまだ原発に頼らざるをえないとうのが結論だが、最後に目先に迫る深刻な危機に触れておこう。イランと北朝鮮の核開発問題だ。
核拡散阻止のためにはNPT(核不拡散条約)体制が存在し、条約に賛同する国ぐには同条約に加入、IAEAの査察を定期的に受け入れて身の証しとして、現地査察を受け入れて平和利用を証明してもらう仕組みになっている。
ところがイランと北朝鮮はこの体制に従わないのだ。イランの核開発の歴史は古く、発端は40年前の1970年代にさかのぼるが、ホメイニ革命のあと、秘密核開発が進んでいたのを反核団体が暴露した。
現在、アフマディネジャド政権は地下施設でウラン濃縮に従事し、秘密開発を進めており、推定200キロの濃縮ウランを備蓄しているとされている。
国連安保理は過去に何回も決議案を採択してIAEA(国際原子力機関)の査察官受け入れを要求しているが、イラン政府は言を左右にして拒否を続けている。
イランはNPT(核不拡散条約)の締結国で、核開発疑惑が生じた場合、IAEA側が緊急査察受け入れを要求できる「追加議定書」を結んでいるが、事前の下交渉でその都度、協定受け入れを拒否、査察は実現しておらず、疑惑は深まるばかりだ。
イランの場合は、安保理常任理事国5カ国とドイツを加えた6カ国が断続的に協議に当たっているが、イラン政府代表はのらりくらりと真意をはぐらかす。
他方、北朝鮮は「核保有国」を自任、公然とNPT体制に挑戦している。
北朝鮮は過去2回、プルトニウムを材料とした核実験を実施したが、次回は自力で生産した濃縮ウランを利用して近い将来、核実験を強行するものと見られている。
イランに対しても、北朝鮮に対しても、国際社会が一致団結して制裁し、効果を挙げれば、こうした横紙破りの行為はなくなるのだが、現実には、国際社会は一枚岩ではない。安保理常任理事国で、拒否権をもつロシアと中国が強制力のある制裁に同調しないのだ。国家主権最優先の国際社会のルールが厳然と立ちはだかっているわけだ。